JAPAN JAMでの出会い - 始まりはいつだって青い春だった

5月5日。突き抜けるような快晴の空の下、僕は蘇我スポーツ公園へと向かった。
JAPAN JAMに行くためだ。

タイムテーブルの観たいバンドの所にマルをつけ、休憩する時間を(泣く泣く)つくり、グッズに目星をつける。
好きなアーティストをより好きになる、普段聴かないアーティストは休憩する時間に当てる。そういう、いつもの、普通の、
楽しいフェスで終わる予定だった。

会場が開いて物販に並び、クロークチケットを取る。
朝から一仕事終えた気持ちで、一緒に来ていた会社の同僚とビールが入ったプラスチックをぶつけ合った。

青空の下で、これから鳴る音楽を想いながら飲むビールは何故こんなにも気持ちが良いのだろうか。

それから時が流れていって僕らはビールの泡のように弾けていて芳醇とも言える時間を楽しんだ。

お昼過ぎに、ワンマンライブにも足を通わせる程に好きなアーティストを見終え、僕はある種の達成感に満たされてしまった。
一呼吸置いて、次は何だっけと、タイムテーブルを見直した。

次のマルのつけられたタイムテーブルにはSUPER BEAVERの名前があった。
「S」のマークが印付けられている。
JAPAN JAMならではの、スペシャルコラボの事だ。
アーティスト同士がこの日限りのコラボをして、フェスならではの特別な瞬間を更に輝かせる企画で、

この企画を、僕はずっと見たかった。

ー実は僕は昨年、JAPAN JAM BEACHに行く計画を立てていた。
ずっとワクワクして胸を止められなかった。
しかし予想もしていない出来事が起こった。
開催の中止が発表されたのだ。
誰もが悲しんだ。天候の事ばかりは仕方ないと、不完全燃焼になってしまった胸の高鳴りをポイッとゴミ箱に捨てられないまま、ズボンの後ろのポケットに入れた。

ポケットに高鳴りをしまい込んだままで、それから1年の月日が流れてJAPAN JAMが帰ってきた。
僕にとっては念願のJAPAN JAMだ。

そんな思いを馳せながら僕はSUPER BEAVERのステージの前で開始を待ちわびていた。
陽が傾き出して会場ではすっかり涼風が吹いている。

スペシャルコラボが始まろうとしていた。その瞬間に立ち会おうと大勢の人がステージ前に集まっている。

このステージのコラボはSUPER BEAVERと女王蜂アヴちゃんとのスペシャルコラボだ。

…僕はSUPER BEAVERのライブを見るのは初めてだった。
それどころか音源すら持っていなく、テストの一夜漬けかの如く、何日か前にYouTubeで有名な曲を覚えたのであった。
女王蜂の知識についてもほとんど持ち合わせて居なかった。
映画の『モテキ』で〈デスコ〉を知ったくらいだ。

モニターにSUPER BEAVERの文字が並び、歓声が湧く。
メンバーがステージに出てきて演奏が始まった。

多分、僕はもうこの瞬間から彼らのファンになってしまったんだと思う。一目惚れだった。
あまりにも格好が良かった。良過ぎた。
彼らはロックスターだった。

〈特別は そうだ 普遍的な形をした 幸せだ〉
1曲目に演奏された〈美しい日〉にそんな歌詞がある。
この特別なステージで、本当の特別とはもっと普通な物だと歌う彼らはとても眩しかった。

そしてここで、早々にアヴちゃんが登場する。

初めて見たアヴちゃんは上手く言い表せない程に、美しかった。アーティストのライブを観るという視点から、美しいという表現が適切なのかは分からない。
それでも、低音と高音を上手く使い分けるアヴちゃんの姿はとてつもない存在だった。

夕暮れの寂しさを歌う〈赤を塗って〉という楽曲が披露された。
男女(?)というデュエット形式で歌われた時に、僕は今凄い瞬間に立ち会っているんだなと実感したのだった。

目を奪わている瞬間に〈赤を塗って〉の最後の1音が鳴らされてしまった。
何も成せず、うっとりとして、ただ時間が流れていく様を感じる瞬間は恋にも似ていた。

僕が恋をしている間、次の曲、〈売春〉が始まった。
デュエットで歌われたこの曲も男女の物語を見ているようで心地が良かった。ある種のショーにさえ思えた。

普通は1曲な所を、贅沢にも2曲歌ったスペシャルコラボもいよいよタイムリミットが迫り、アヴちゃんはステージから姿を消してしまった。
しかし、この10分間はこれから先も一生忘れられない貴重な時間になったのはもう間違いない。

アヴちゃんが去っても、その余韻は冷めぬまま、そのままの温度感でステージが続く。

〈証明〉が鳴らされた。
〈誰も独りきりでは無いという証明〉という強く明るい希望を歌った曲を、ここにいる多数の人々と歌うエネルギーは凄まじいものがあった。
音源と違ってアドリブで語りかけてくれるボーカルの渋谷龍太は良い意味で青臭くてかっこよかった。

そのまま続く〈青い春〉。
初期衝動の大切さを伝えるロックスターの姿に僕はもう、涙を堪える事が出来なかった。
眩し過ぎたのだ。あまりにも。

ラストに披露された〈秘密〉の合唱は凄かった。音楽の、1人1人の人間の強さを、感じた瞬間だった。

〈教えてよ あなたの秘密が ちゃんと叶うようにさ〉
という歌詞で締められたステージは、各々の未来へと向かう為の送られた『またね』って言葉のように思えた。

この日の1番はSUPER BEAVERに持っていかれた。
人生を変えられてしまう程の大きな出会いをした。
あれから約1週間。僕は未だにSUPER BEAVERばかりを聴いている。もちろん女王蜂もだ。
翌日、CDショップに駆け込んで『奇麗』と『27』を買った。
こういった音楽の繋がりはフェスならではだと思うし、ましてやコラボで聴けるJAPAN JAMは本当に素晴らしいなと思う。


自分が好きなものを好きだと言えるように。大切にしたいものを大切に出来るように。自分の事を誤魔化さないように。

僕はまた彼らのステージが観れるように希望を持って生きていきたい。
始まりはいつだって青い春だった。


この作品は、「音楽文」の2017年6月・月間賞で入賞しただーいし。さん(22歳)による作品です。


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