その魔法は裏切りか、揺さぶりか。 - UNISON SQUARE GARDEN 『MODE MOOD MODE』に寄せて

 その知らせはあまりにも突然だった。年も明けたばかりの2018年1月1日、UNISON SQUARE GARDENが7thアルバム『MODE MOOD MODE』の発売を発表した。発売日はなんと発表から3週間後の1月24日。通常、CDは販売店に通達の行く2ヶ月程度前に世の中へ解禁されることが多いそうなので、異例の発表ということになる。しかも、収録曲の曲名と曲順の公式発表は発売から1週間後ということも併せて発表された。つまり、CDショップでCDを手に取るまでは、シングル曲等の一部を除いて、それらの情報が全く分からないということになる。異例中の異例な発表だが、これらの施策は全て「CDを買う人が1番得をすること」を目的としたものだという。彼ららしい、裏切ってはいけないファンを裏切らないための施策だ。僕自身、彼らにとって裏切ってはいけないファンかどうかはわからないけれど、彼らのCDのリリースを知るたびに、胸躍らせながらリリースまでの日数を指折り数え、店着日には満面の笑みを抑えつつCDショップへ足を運んでいる人間なので、こういった施策は本当にご褒美のようだった。

 そんなこのアルバム、まずキャッチコピーに驚かされた。そのキャッチコピーは<わからずやには見えない魔法を、もう一度。>だ。これを読んだだけでものすごいアルバムが出来てしまったのではないかと予感して鳥肌が立ってしまった。なぜなら、この<わからずやには見えない魔法>というフレーズは、彼らの4thアルバム『CIDER ROAD』のラストの収録されている『シャンデリア・ワルツ』という、彼らにとってもファンにとっても宝物のように大切な曲の一節だからだ。今のタイミングでこの歌詞を引っ張ってくるのだから、絶対に心が揺さぶられる最高のアルバムとなるに違いないと思った。最高なのはいつものことなのだけれども。

 そんなこんなでいつもに増して高揚した気持ちのまま、やや寝不足で迎えた店着日の1月23日、CDを手に取って曲名と曲順を見た瞬間、人目をはばからず盛大にニコニコしてしまった。いつも通りなのだけれども確実に毎回期待を超えたワクワクを与えてくれるのが彼らなのだと改めて思い知らされた。しかも今回は詳細な情報が事前に解禁されていなかったこともあり、アルバムを手にした時の高揚感はいつもに増して大きいものだった。

 そして、いざCDを開封して音楽プレイヤーに取り込んだのはいいものの、何だかもったいないような気持ちになり、再生ボタンを押すまで時間がかかってしまったが、再生ボタンを一度押した瞬間からラストの『君の瞳に恋してない』まで、その体感時間は一瞬だった。しかし、その一瞬さとは相反して、頭の中はこれまでに無い程に混乱していた。

 前作の『Dr.Izzy』は、色々なタイプの曲が多かった一方で、かなり無骨でぶっきらぼうなサウンドの曲が多かった。しかし、そこに対して「変わらないな、ユニゾンは」と安心することも出来たし、同じように思っているファンも多かったはずだ。しかし、今回の『MODE MOOD MODE』は、ユニゾンらしい疾走感あふれる曲からグランジやロカビリー、AORの雰囲気を感じる曲まで様々で、その点は前作と同じなのだが、どの曲もメロディがめちゃくちゃに人懐っこくてポップなのだ。それはもう、まるで犬と猫のレベルで違う。昨日までめちゃくちゃシャイでぶっきらぼうだった友人が、翌朝めちゃくちゃ気さくに握手をしてくるような、そんなあり得ないくらいの例えが出てきてしまうくらいの振り切り方だった。発売前のインタビュー各所で、『Dr.Izzy』で安心したファンに揺さぶりをかけたいという旨の発言を田淵(Ba./Cho.)がしていたため、それなりの覚悟はしていたのだが、想像の上空遥か彼方をぶっ飛んでいかれたので、とにかく耳元で流れている魔法にふっ飛ばされないようにしがみつくことで精一杯だった。

 幸い自分はポップに振った音楽が大好きであるため、何回も聴いていくうちにこのアルバムに対する納得感も出てきたし、何よりどんどん好きになっていった。そんなこともあり、このアルバムを聴いて「裏切られた」という思いは一切わいてこなかったのだが、ポップな音楽が得意でないファンからすれば、この振り切り方は「裏切られた」という気持ちになってもおかしくないはずだなと感じた。それこそ、差し出した手を噛み千切られた気分かもしれない。特にこのアルバムの軸になっている『オーケストラを観にいこう』と『君の瞳に恋してない』の2曲は、オーケストラだったりホーンだったりピアノだったり、3人以外の音が大渋滞しているポップの暴力のような曲たちなので、差し出した手が血みどろになった気持ちのファンもいるような気がしている。 

 そんな裏切りとも取られかねないこのアルバムだが、僕はどうしても裏切りだとは思えないのだ。というのも、もし仮に彼らがファンを裏切るようなバンドだとしたら、今回のような形式でのアルバムリリースなどするはずが無いからだ。今回の発表の仕方は、「シングル曲を引っ提げたツアー中に新しいアルバムが出てしまう、しかもそのアルバムにはシングル曲が4曲も入っている。」という相当に厳しい制約条件の下、裏切ってはいけないファンを裏切らずにいかに楽しませるかという工夫がめいっぱい詰め込まれた施策であった。ファンを裏切らないことにここまで心血を注いでいる彼らが、アルバムの中身という肝心な部分で裏切りをかましてくることはまず考えにくいのではないだろうか。

 そしてもう一つ、今回のアルバムが裏切りでないと思っている理由がある。それは、今作のキャッチコピーとも関連の深い『CIDER ROAD』の次にリリースされたアルバムが『Catcher In The Spy』であったことだ。『CIDER ROAD』は今作と似た非常にポップなアルバムである一方、『Catcher In The Spy』は真逆のロックに振り切ったアルバムだ。つまり彼らは、極端な方向に振り切った次の一手として、逆の方向に振り切った揺り戻しの一手を打ってくるのだ。これは、1枚のアルバムの中でも言えることで、『エアリアルエイリアン』の後には『アトラクションがはじまる(they call it “NO.6”)』がくるし、『mix juiceのいうとおり』のあとには『Cheap Cheap Endroll』がくるし、『Own Civilization(nano-mile met)』のあとには『Dizzy Trickster』がくる、彼らはそうやって、必ず揺り戻しをかけてくるバンドなのだ。今回の『MODE MOOD MODE』のようなある方向に振り切った作品が出て来たとき、「え、ユニゾン、変わっちゃったの・・・?」と少し戸惑うけれども、その揺り戻しがきっと次に待っているのだ。だから彼らがある方向に振り切ったとき、それは「裏切り」ではなく「揺さぶり」なのだと思う。そして、その揺さぶりの向かう方向は全て彼らの気分であり、その時々のモードとムードが決めているのだろう。そんな風にファンをあっちこっちに揺さぶることが出来るのは、これまでの活動の中で、揺らぐことないユニゾンらしさのど真ん中を一つずつ丁寧に積み上げてきたからこそ成せる技なのだと思う。

 彼らのことだ、きっとこれからも、あの手この手を使ってぼくらを揺さぶり続けるのだろう。そのたびに喜んだり驚いたりするのだろうし、もしかすると、心がざわついて不安になることもたまにはあるかもしれない。それでも、それがその時の彼らの気分なのだろうし、きっとどこかでバランスを取ってくれると信じている。だから、これからも安心して彼らの手を握っていきたいと思う。そうすれば、最高に楽しい景色を見られる場所へ連れて行ってくれるはずだ。だって、<ロックバンドは、楽しい。>のだから。


この作品は、「音楽文」の2018年4月・月間賞で入賞した東京都・panyanyanさん(26歳)による作品です。


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