決意と覚悟が光った最強の夜。 - LAMP IN TERRENが魅せた900+4人のMARCH。

〈さぁ どんな姿で歌おうか〉/ “New Clothes”
歌い続ける、一対一でこれからも────。

2018年2月26日、衝撃が走ったあの夜、4月のワンマンツアーを最後に、ボーカル松本大の声帯ポリープ切除手術による活動休止が発表された。
正直のところ、上手く受け止められなかったのが事実だった。
何となく最近の喉の調子が良くないのかなと思うライブもあったし、“もしかしたら”なんて事を思ったりもしたけれども、実際、ポリープ、活動休止発表を耳にしたあの瞬間は驚きとか悲しさとかそんなものよりも先に、漠然とした何かで埋め尽くされていた。

そして迎えた4月21日、正直この日を迎えるにあたってどんな風に見たらいいのか、どんな風に受け止めればいいのかわからず、あの時感じた漠然とした重たい何かをズルズルと引きずりながら、ここ恵比寿リキッドルームの前に立っていた。

チケットのもぎりが始まり、階段を降り、電波も入らない地下の音の巣窟へと向かう。
どこか落ち着かないのは私だけではないようで、少し周りを見渡せば、「今日で最後だね」なんて会話もちらほらと聞こえてくる。
最後か。最後と言えば最後かもしれない。けれど、どこか違う、活動休止前という特殊な日。浮き足立つような気分と何処か寂しさのようなものが共存する不思議な気分だった。

そんな事を考えていると、照明が落ちた。
床が見えないくらいの人で埋め尽くされたライブハウスに拍手と歓声が上がる。

拍手で溢れたステージにそっと上がる松本。
彼が向かった先は、いつものセンターマイクではなく、手前に大きな存在感を放つキーボードだった。
そして静寂を飼い慣らすかのように絶妙な間をとる。
これから始まるものへの期待値と緊張感が最大値まで上がる、上がる、そして最初の一音。
柔らかいピアノの音。ゆっくりと伴奏に変わっていく。
静かに囁くように始まった“花と詩人”。
下手側からじんわりと広がってゆく蒼い照明が花に満ちていく水のようでなんだかホットする温かい気持ちになる。
そして、ベースの中原、ドラムの川口、ギターの大屋が加わりどんどん音に厚みがでてくる。
このシンプルな演奏に重なるバスドラの音が私は好きだった。

拍手で包まれたフロアを松本が大きく息を吸う音が切り裂く。
そして、ギターと共に歌い出した。
“涙星群の夜”、そう、涙星群なんだ。上を向けば、本当に星が降ってきそうなくらいのキラキラした感じ。

〈何よりも眩しく輝いた〉 / “涙星群の夜”

圧倒的な力強さを込めて歌うかと思いきや、不意をつくかのように演奏を止める4人。
そして拍手を煽る松本とそれに答えながらも笑みをもらす観客。

LAMP IN TERREN ワンマンツアーMARCHファイナル 恵比寿リキッドルーム編始めます、最高の1日にしようぜ、どうぞよろしく。 」

そう言い放ち次の曲へ、と思われたがまさかのストップ。
そしてもう一度、

「LAMP IN TERREN ワンマンツアーMARCHファイナル 恵比寿リキッドルーム編始めま〜〜〜す!!!!」

と仕切り直しからの全員と一緒に1.2.3.コール。

“ランデヴー”
手を振って、大合唱をして、先陣をきってどんどん加速度を上げていくLAMP IN TERRENに置いていかれないように必死でしがみついていく観客。

〈あの世界へ 望む未来へ 痛みを知った 本当の声〉/ “ランデヴー”

今まで聞いた中で1番大きかった“本当の声”、満足そうに私達を見る4人に、さっきまでの不安だとかなんだとかが全部抜けていくような気がした。

先程の仕切り直しを笑い話にしつつも、

「色々あると思いますけど、今日は色々ありますが、全身全霊で今の自分をお届けするという気持ちには変わりがないので、全部受け止めて帰ってください」

と少し緊張感をもった声で言った。

続けて新曲、“Dreams”。松本は再びキーボードの元へ。
「夢」、「夢」と言えば“Sleep Heroism”という曲が最初に浮かぶのだが、あの曲で描かれた夢と理想、そしてこの曲に描かれた夢と理想。やはり進化してるのが、どんなに目を背けようともわかる。

〈叶わない夢だと知って 僕らは嵐に飛び込んでいく〉

〈不確かなままいこうぜ ボロボロでも諦めはしないだろう〉

/ “Dreams”

まだ見えない先を見据えてる。私が何か分からないものに引きずられてグダグダ悩んでいる間に、彼らはとっくに大きく前に進んでいて、全力でぶつかりにきてる。
そんな気がして、今まで胸の中でぐちゃぐちゃに渦巻いてた痞が昇華していくのを感じた。

そんな安心感の直後に待っていたのはこれまで何度も聞いてきた“reverie”。あ、これも「夢」だ、そう気づいた時には思わずニヤリと口角が上がった。
「非現実的な空想」を描いたこの曲を気怠げに、けれど芯が通っている力強い声で、そしてテレンの真骨頂の演奏力がフルで降り掛かってくるんだ。

追い討ちをかけるかのように重々しく放たれたのは“at (liberty)”。
やはりこの曲はライブ映えする、というのも得体の知れない重圧感が次から次へとこちらに向かってくる。ひたすら前進、そう、フル装備でこちらにドスドスと向かってくるみたいな感じで、完全にギラギラと光っているのにも関わらず、まだもっとすごい、もっと強いものが待っている事を想起させるかのように。

そしてそれが間違いなかった事を示す、重々しい不規則な同期音とともに攻撃開始をした“innocence”。
秀逸で強靭で、のべつ幕無し畳み掛けてくる。
それに合わせて力強い拳が上がる。

〈最果てまで ずっと脈を打ち続ける 答えのない日々が正しくある為に〉
/ “innocence”

逃げられないなら未来へ進む、今の僕らを全力で受け止めろと冒頭に言っていたがまさにそう。1曲、1曲に色々なモノが詰め込まれていて、投げられたそれを全力で開いて、受け止めて、考えて、自分なりのモノにする。その作業がどうも可笑しくって、けど楽しくて、ライブってそういうものなのかも、と今まで気にもしなかった事まで頭を過ぎるから彼らのライブは凄い。

そしてMCでポツリポツリと自分の心の中を話していく松本。

「ミュージシャンってそういうのじゃないかもしれないですけど、僕はいつでも一対一で歌っていたいです。」

「今までよりずっとそんな気持ちがあるという事を閉じ込めて歌います。」

優しく、力強く、訴えかけるかのような“pellucid”。
ラスサビのあの「間」がたまらなく掴まれて、離してくれなくて。

〈もしもこの身が透き通る術を得たなら 僕の心を見せたいけど もう 何も言わずに伝わる事もあるらしい 僕はそっと塞ぐよ〉
/ “pellucid”

「僕 “が” “ずっと ”塞ぐよ」、そう歌詞を変えて優しく歌った。気概に満ちていて、堪らなくなって、また涙が零れた。

そんな涙まで何処か飛ばしてくれた軽快なドラムのビートとアーバンソウルなギターのリフから始まった“オフコース”。各会場でのメンバーセレクト楽曲、川口バージョン、なだけあってエネルギッシュなドラムソロでどんどん空気を変えていく。

手拍子でいっぱいになるとアカペラが映える。新緑と温かい日差しでで覆われた長い坂道を自転車で全速力で下る時みたいな爽快感までもを感じた。

そして、ここへ来てツアータイトル“MARCH”の意味を説明した。松本が高校時代、吹奏楽部の幽霊部員だった頃、マーチングを見るのが好きだったと話し、ライブというものは自分たちとお客さんで一緒に創るマーチングみたいだと感じ、名付けたそう。

「ややウケでした。」

と観客に笑いを誘い、さらに会場の熱を煽り、もうひとつの企画、会場の挙手の中から彼らの独断と偏見で選んだ1名様のリクエストにお答えしようというファンからすればこの上ない企画に会場にどよめきの声が上がる。

そして、沢山の挙手とともに、小学校の出席を取る時のような大きな「はーい!」の声が響き渡り、メンバーも悩みに悩んだ結果、中原の独断と偏見で選ばれたのは、一番後ろで見ていた男の子。
彼のリクエストは、“雨中のきらめき”だった。
思わず感嘆の声が各所から漏れるのがわかった。

大屋のメロウなギターリフが独りでに踊り出す、導かれるかのように楽器が重なって、気づけば雨上がりの
きらきらと反射した水溜りを斜め上から眺めている、あの感覚を全ての人に感じさせていた。

余韻を含ませながらも、口を開いた松本は言葉を紡ぐつもりでいたが、歌ってきて気が変わったと言い、“緑閃光”をそっと投げた。

〈どこかに落とした気持ち / 何度も 何度でも見つけてみせるよ〉 / “緑閃光”

ステージ全体が緑で立ち込める中、何年も歌い継がれてきたこの曲がメンバーを含め、そこにいる全員の背中を押す。やっぱり裏切らないんだ、この曲は。この曲が彼らのひとつのきっかけだから。そして大嫌いだった私自身を嫌いじゃないと思わせてくれたから。
どうしても特別視してしまうこの曲、けれどそんな自分勝手な贔屓目を差っ引いても、カッコよくて堪らなくて、このタイミングで何故か心の底からの“感謝”が生まれたんだ。

エモーショナルで滲む涙を拭いながら、彼らの次の一手を待つ。
“multiverce”。
これもまた、ここに至るまでに全てをくぐり抜けてきたから、全てを通ってきたからこそ今の出会いが、ライブがあるなら最高だと心の底から思えるような曲だと言って、4人とも眩しいくらいの笑顔で、そして900人のオーディエンスの笑顔と声で奏でた。
曲の合間には、「もっと聞こえるはずだなぁ、だって今日ソールドアウトだぜ?」と心底嬉しそうに煽る松本とそれに応えるかのように、音圧を上げるオーディエンス。
気持ちいい、そうとしか表現できないほどに、あの一体感には音楽の神様も脱帽だろう。

そして、今度は音楽の舟に乗り込み、“ワンダーランド”へと向かう。
ブレーキなど付いていないこの船は、キラキラと光った音楽の楽園に一直線に進んでいく。
強い、強い、強すぎた。

〈届けたい唄を渡すよ それが世界を変えてしまうように〉
〈歌いたい唄を鳴らすよ 今が未来を変えてしまうように〉
/ “ワンダーランド”

この船の船長が自信に満ち溢れた姿で前へ進んでいくのを見た船員は世界が、未来が、変わっていくことを確信し、彼の背中を追う、ただそれだけだった、

さらにフロアをダンスフロアへ一変させた“地球儀”、“キャラバン”。
何もかもを忘れて、唄い、踊り、今までに見たことのない景色を彼らなら、私たちなら創っていく事ができる。
逆境だろうと、何だろうと、全てひっくり返すことだってできる。
そんな強さが滲み出ていた。

既にクライマックスを迎えたかのように、溢れんばかりの拍手の中、松本は私達に思いもよらないプレゼントを落とした。
帰ってくる日、そして、帰ってくる場所。
8月の19日、日比谷野外大音楽堂。
真夏の太陽が盛大に差し込むあのデッカイ日比谷野音で彼らは今まで以上に強くなって帰ってくる事を約束したのだ。
生半可な気持ちではこの壁は越えられない、自分たちがそこに行けるかどうか何回も何回も何回も考えたけど分からなかった、けど全部届ける、と。
今すべてに勝てる自身があって、自分にも、周りの友達にも、私たちにも買って、もっと素晴らしいものを翳して、この舞台に立ち続ける、生きていこうと思った、と。
そして最後に、今日は活動休止ではなく、LAMP IN TERRENの始まりの日だと。
目の奥底に何か潜んでいるのかと思うほど、じっと私たちの方を向いて、決意を口にした。

決意とともに放たれたのは、新曲“New Clothes”。

〈さぁ どんな姿で歌おうか 決して消えない過去の上に立って 今 歪なほど正しい未来 嗄れたって 消えない誓いを翳して〉

〈他の誰でもない俺が 選ぶ 歪な正しさに〉

/ “New Clothes”

強烈なアイデンティティと松本の、メンバーの決意と覚悟がギラギラと妖しく輝き、そして青い高温の炎が燃えたぎるような熱さと苦しさまでもを感じる。

小さなハコの最前列で泣くことしか出来なかった高校生になりたての私が、数年の月日が経って、今何を思って、此処リキッドルームの中央で彼らを見ているのか。
青春だなんて一過性のものに頼りすぎていた私は、今、一体何を感じたのか。
そんなもの、仮にここに残したとしても、きっと読み手によって感じ方だって何百通り、そしてきっと、また明日には違った感情が更新されていく。
だったら何も書かなくてもいいような気がする。
けれど、どうしてもあの頃と重なるのがやはり、意識とは裏腹に勝手に溢れ出てくる涙だった。
どうしてこうも涙が溢れてくるのか、少しは成長したと思っていたのに、結局は何も変わっていないのではないか。
そんな事、この曲を聞けば、このライブを見れば、どうでも良くなる。
あの時いいと思ったバンドがこうもカッコよくなって、あの時と変わらず、私の全感情を揺さぶり、涙を流させる最高のロックスターだということ。
夢なんて言わせない。
彼らはずっと私を離さなかったんだ。

全てが吹っ切れたような顔をした4人が頭を深く下げ、盛大な拍手と溢れんばかりの“ありがとう”の言葉が踊るフロアをあとにした。

そして照明が落ち、900人誰一人帰る姿もなく、ステージをじっと見つめる者、拍手で彼らの帰りを待つ者、彼らが落としたプレゼントに涙を流す者、喜ぶ者、それぞれの思い思いの行動を横目に、私は少しの違和感を感じた右の掌を見た。
暗くてあまりよく見えなかったが、キリキリと痛む右手には、強く握り締めた時にできるあの赤い痕がやはり出来ていたようだった。
どうやら彼らが残した爪痕は、とても大きかったらしい。
その傷跡をどこか満足そうに見ている私はただのバカなのか。
そんな私をバカに変えたのも彼らで。
そんなどうでもいい事を考えながら、心の中で笑っていると、再びステージには灯りが点った。

今度はアコースティックギターを持った松本1人だった。
頭をガシガシとしながら、落ち着いた声でまた話し始めた。
バンドの音を取り除いた状態で唄を歌うと、より自分の気持ちを共有できる、そんな気がするから、弾き語りをすると、そう言った。

最近まで大阪にいたこともあってFM802を四六時中聞いていたり、ラジオ局が主催する公開収録やイベントにもよく参加していたが、その中でも群を抜いて見た回数が多かったのもそう言えば、彼らだったな。
特に我らが松本大が部長を務める“弾き語り部”のイベントには、ほんとにドキドキさせられたもんだった。
あの日、松本が言った通り、バンドよりも松本大を紐解いてるみたいで、バンドはバンドなりの良さがあるが、弾き語りは弾き語りで、唄が伝わってくるのを感じた。

そんな久しぶりの“弾き語り”だったが、松本が選んだのは“メイ”だった。

「出会ってくれてありがとう、見つけてくれてありがとう、聞きに来てくれてありがとう、僕をミュージシャンにしてくれてありがとう。」

そんな言葉と共に。
ゆっくりと唄を紡いでゆく。

〈あなたが僕の証明〉へと歌詞を変えて。
〈今日からまた 手に入れていこう ただ一つの 僕らだけの証〉へと歌詞を変えて。

今のLAMP IN TERRENを、今の松本大の言葉を唄を、全身に浴びる。

出会ってくれてありがとうだなんて、見つけてくれてありがとうだなんて、そんなの私のセリフだ。
出会ってくれてありがとう、ステージに立ち続けてくれてありがとう、私を変えてくれてありがとう、私の光でいてくれてありがとう、、数えきれない“感謝”が湧き上がる。

この人達には叶わない。どこまでも私の予想も期待も全て超えていく。
そしてそれは最初から最後まで一貫して変わらない。

ラスト1曲、彼らの出発を後押ししたのは“L-R”だった。

〈この手が眼に映った時 この身が独りで立てた時 その全ては必然じゃないんだ この全てが僕だと言い張るんだ〉/ “L-R”

“この全てが僕らだと言い張るんだ”

松本のマイクをほぼ通していない声と、私たちの声で包まれて。

また歌詞を変えて、歌う。“僕”だけじゃない、“僕ら”だと。
ダイナミックでドラマチックでセンセーショナルな“四重奏”、それに重なる私たち900人の想いと声。

微かな光がどんな光よりも明るく灯ったあの瞬間、拭うことも忘れるくらいの大粒の涙がこれでもかと思うほど煌めいた。

いってきます、いってらっしゃいが交錯したあの夜、4+900人の演者が1つになった。

さぁ、どんな姿で歌おうか ────。
変えられない過去をどう越えていくのか。

日比谷野外大音楽堂で見る、新しい服を纏ったLAMP IN TERRENの姿は果たしてどんなものなのか。

数々の期待と想いを胸に、また私は歩き出す。
今度は3000人と一緒に歩む、新しい“ARCH”へと向かって ────。


この作品は、「音楽文」の2018年6月・月間賞で入賞した東京都・アンズさん(18歳)による作品です。


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