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    32歳がMy Hair is Badを聴くということ - ドキドキさせてくれてありがとう

    あっ。今日もこのフロアでこの会場で私は最年長かもしれない。
    マイヘアのライヴに行くと毎回思う。
    フロアを見渡しても、明らかに皆学生で、それはきっと大学生で専門学生で高校生で、下手したら中学生だと思う。社会人の人もいるなと思うけど、客観視して明らかに私より年上だという人には中々あわない。

    そんなことを強く思ったのは、地元のライブハウスでライヴがあった日だった。
    32歳の私は18歳の頃の私に比べて、グッズを買う頻度がめっきり減った。
    18歳の頃の私は何度も見に行くバンドのグッズをたくさん買ったけど、32歳の私は終活ってわけではないけれど、本当に欲しい最低限のグッズしか買わない。
    その日どうしても欲しいTシャツがあり、仕事を切り上げて誰よりも早く職場を飛び出し、ライブハウスにむかった。
    そして、物販の列に並び面食らう。マイヘアを聴くようになったタイミングの兼ね合いで、毎回県外のライブハウスに行き、STARTギリギリにライブハウスに入ってた私は気づいてるようで気づいてなかったようだ。
    その日並んだ物販の列の多くが制服を着てた人だった。
    恐らく私の半分くらいの歳の人たち。
    少し戸惑う。私は自分の実年齢をちゃんと生きてるのだろうかと。物販を並びながら考える。

    でも、その戸惑いはライヴを観て、興奮が冷めた翌日に気のせいだったと気づく。
    私は今までの私の音楽とは違う音楽の楽しみ方をマイヘアに教えてもらった。
    あくまで私の音楽についての話で恐縮なんですが、今まではその歳の私が共感できる音楽を好んでいたと思う。
    13歳の私は恐らく歌詞の意味なんて理解せず、ひたすらメロディーを聴いていた。
    16歳の私くらいから、メロディーだけではなく歌詞も重要視し、その時の自分の心情や状況、それらに近い曲やバンドを好んできたように思う。
    だからこそ、今32歳の私が当時聴いてた曲を聴くと、その当時の素晴らしい思い出や、辛い気持ちや、青い感情、苦い記憶が脳内にフラッシュバックする。
    だけど、マイヘアは違う。今の私の心情や状況にリンクする曲は数少ない。むしろ、過去の私とリンクする。

    例えば、私が好きな曲の1つ。
    『ワーカーインザダークネス』
    「仕事の為の生活
    生活の為の仕事
    私さ なんでさ ここにいるんだ
    絶対絶対天国ならこのまま逝ってもいいよ
    セドリックで迎えにきてちょ」

    32歳の私はこんな気持ちになるような働き方はしてないんだけれど、24歳の私はしてた。
    この曲を聴いた時に懐かしさを身にまといながら、ふっと笑みが漏れた。
    ブラック企業というヘビーなテーマに、現代ならではの単語を織り交ぜ、軽快な仕上がりにしてる。
    聞いてもズーンという重さはなく、むしろ戦闘曲のような、なんとなく仕事に立ち向かえる曲。
    24歳の私がマイヘアを聴いてたら、絶対に出勤ソング常連の曲だったろうなと確信した。

    同じようにマイヘアの曲の中でかなり好きな1つ。
    『月に群雲』
    「声がなければ 耳がなければ
    僕だってこんなに汚れてないだろう
    空が飛べれば 猫になれれば
    僕だってこんなに悩んでないだろう」

    やはり32歳の私はこんな思考に陥ることはないけど
    18歳の私はこんなことばかり考えていた。
    マイヘアを見てると、彼らの真っ直ぐな熱い気持ちを強く感じる。真っ直ぐという言葉から遠ざかった気がしてた32歳にはたまらない。
    真っ直ぐで熱いのに鬱陶しくないのは、持って生まれた才能で、そう見せようとして計算できるものではないように思う。
    真っ直ぐ、熱く。
    これまた、18歳の私の心の支えに推薦してあげたい1曲だと思った。

    他にも好きな曲で『悪い癖』やライブ王道曲『真赤』彼氏視点で歌った『元彼氏として』『彼氏として』そんな恋愛の曲は20代前半の恋愛を思い出す。

    現在の自分ではなく、自分も通ってきた色々な出来事やその時の自分の中にあった大切な気持ち。
    振り返る時間をくれる。

    それでも、マイヘアの魅力は語り足りない。
    何より私が、魅了されたのは、ボーカル椎木の曲と曲の間のパフォーマンス。
    「120文字のtwitter 250円の牛丼 1円にもならなかったなんて言わせない」
    そこから始まるその時その時の即興。
    それが終わる絶妙なタイミングで演奏にはいる、ベースのバヤリースとドラムのやまじゅん。
    初めてマイヘアのお家芸を見た時に、このバンド何?と疑問符が脳内を埋めた。
    面白すぎる。

    そこからマイヘアに魅了された私は更にバンドに対して初めての気持ちを更に味わう。
    わかり易くいうと、親に似た気持ちなのだ。
    本当の親御さんすみません。
    去年の12月に地元でスピッツ主催の音楽イベントを見に行った。スピッツを筆頭に音楽シーンでは固定客をしっかり掴んでいるバンドの中にマイヘアもいた。
    やはりスピッツは圧巻だったし、他のバンドもそれぞれとても格好良かった。
    そんな中、私はマイヘア大丈夫かな、いつもの持ち味ちゃんと出せるから、今日という日に爪痕をきちんと残せるかなと、誠に勝手な親心全開で、それは子供の発表会を見る親の気持ちに近いものだったと思う。
    年間を通して、尋常じゃない数のライブをして場数を踏んでいたマイヘアにそんな心配は、余計なお世話以外のなにものでもなく、しっかりと彼らの魅力を出したライブだった。
    ライブ後、マイヘアファンではない友達にマイヘア良かったって言われた時は、とても嬉しく誇らしい気持ちになったが、何目線だよと冷静に自分にツッコミをいれた。

    今回のギャラクシーホームランツアーでは、地元のホールなど、何度も先行販売で落選しツキに見放された中で、唯一彼らの地元新潟県のチケットが当選した。
    初めてのホールツアー。
    初めての指定席。
    しつこく、年齢の話で申し訳ないが、ライブハウスはチケ番が良くても、32歳の私は前列で踏ん張れないから指定席のホールツアーは若い番号を切実に望んでた。
    実際は2階席で意気消沈だった。
    しかし、マイヘアのライブを目的としながらも初めての地、新潟への遠征はとても楽しみだったし、何よりホールツアーのマイヘアはとんなライブをするのだろうと興味津々だった。想像しようにも想像が出来ない。それがマイヘアだと思う。蓋を開けてみないとわからないドキドキをいつも最大限与えてくれる。

    結果、ホールツアーらしい演出、構成はもちろんのことその中にもいつものマイヘアがいた。
    ブレずに、堂々とマイヘアらしいライブをしていて、十分に足を運ぶ価値があったと感じた。
    席に関しては、2階席だったため、3人をバランス良くみれて、1階席とは違う楽しみかたが出来た。
    椎木しか見えないとか、バヤリースとか見えないとかやまじゅんがとても見えにくいとかではなく、マイヘアを見れた席だった。
    親目線で言うと最高の席。
    見るまで1階の前の方でみたいと、クダ巻いてごめんなさい。

    さて、日付が変われば武道館。
    東北の地から、明日もあなたたち3人のお家芸を想像して良いライブをすることを願ってる。

    32歳だけでなくまた来年になってもドキドキさせてね。


    この作品は、「音楽文」の2018年5月・月間賞で入賞した宮城県・ユハラ・エーナさん(32歳)による作品です。


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