スーパースター、back numberに初めて会いに行った時の話 - 初めてのライブが彼らで本当によかった。

 「東京ドームに連れていきます。」

 これはback numberのボーカル・ギター、清水依与吏が2013年の日本武道館でのライブ、“stay with us”で宣言した言葉だ。
 そして、その五年後。2018年8月11,12日。back number dome tour 2018 “stay with you”の東京ドーム公演、彼らの夢が叶う瞬間に幸運にも立ち会うことができた。しかもそれは、私にとっての人生初ライブ。最高で、瞬く間に過ぎていった、私にとって一生忘れることのない、密度の濃い三時間だった。


 そもそもback numberとは。ボーカル・ギターの清水依与吏、ベース・コーラスの小島和也、ドラムの栗原寿からなる、群馬県出身のスリーピースロックバンドである。「高嶺の花子さん」や「クリスマスソング」「ハッピーエンド」「瞬き」「大不正解」など数々の名曲を生み出してきた。そんな彼らのライブを見て私が感じたことを綴っていきたいと思う。


 ライブが開演する一時間ほど前に会場に入った。さすがは東京ドーム、キャパ数五万五千人というだけあって、そこはとてつもなく広い空間だった。周りを見渡せば座席、座席、座席、座席。どこからともなくスモークも巻き起こっていた。ライブに行くのが初めてだった私には、何から何まで新鮮な体験で、幸せだった。チケットをこれでもかと固く握りしめ、三塁側二階席にあるはずの自分の席を探す。一つ一つ席の番号を確認しながら階段を上っていくと――――あった。二階三塁側41ゲート9通路13列115番、私だけの席。席の上にはフライヤー。それを手にとって、座る。腰を下ろすと東京ドームを一望できた。目の前一杯に二階席、一階席、アリーナが広がり、前方にツアー名の刻まれたモニター、そして彼らがこれから使うのであろう楽器がセッティングされたステージ。本当にここでライブがあるんだな、当選してから指折り数えてきた日がやっと今始まろうとしているんだなという思いがこみ上げ、ちょっぴり泣きそうになった。


 その時が始まるのを今か今かと待っていると、唐突に煌々と煌めいていた会場のライトが一気に落とされ、歓声と共に会場全体が立ちあがった。そしてそのまま、モニターには大きくオープニング映像が。食い入るようにその美しい映像に見入っていると、場面が切り替わり、人のシルエットが映し出された。清水依与吏、小島和也、栗原寿の三人だった。観客はより一層の歓声に包まれた。私ももちろんそのうちの一人だ。彼らと同じ時を共にしていることがにわかには信じられなくて、思わず口を押え、ひゃあ、と何とも間抜けな声が漏れ出てしまった。無論そんなものは一瞬のうちに周りの拍手や歓声に飲み込まれた。本当に三人は生きているんだ、テレビ、CD越しじゃなくて生身の三人が実在しているのだと思うと興奮が止まらなかった。その瞬間から一曲目が始まるまでの間は長いようでいて、一瞬の出来事だった。

 「幸せとは――――――。」

このワンフレーズからライブは始まった。「瞬き」だ。一瞬会場が息をのんだ後、そこには依与吏さんの歌う声とギターの音色だけが残された。侵しがたいほど静謐で、綺麗な光景だった。綺麗、という表現が合っているかはわからないけれど、とにかくそれを何者にも邪魔されない光景は、美しかったのだ。
冒頭を謳いあげた後、ベースとドラムがそれに加わった。ギターに加えベースの重厚感のある低音、ドラムの力強く叩かれる音が音響機器によって何倍にも増幅され、床から会場全体に響き渡った。嗚呼、これがライブなのか。そう思った。家で、電車で、何気ない日常の中で曲を聴いているだけでは、絶対に体験できない音。それがここに確かに存在していた。微かなライトの向こうで寿さんがリズムを一音一音刻んでいる腕も、和也さんがベースを弾きつつゆったりと揺れているのも、依与吏さんがマイクを握り、肩にかかったギターが光に反射しているのも、見えた。それは豆粒ほどの大きさだったけれど、確かに彼らはそこにいた。ここで演奏して、歌っていた。それだけで涙が出るほどうれしくて、泣きそうだった。この三時間、絶対に忘れまい。そう固く決意した瞬間だった。


 「小さな歌ばっかり作ってきた俺たちが、今こうして東京ドームという大きな舞台に立てることを誇りに思います。」

最初のMCで、依与吏さんはそう言った。back numberの曲には恋愛を歌ったものが多くある。それは片思いの曲だったり、幸せな男女の歌だったり、はたまた失恋の曲であったり、様々だ。
 その中で根底にあるのはやはり、清水依与吏がバンドをやろうと志した時の思いではなかろうか。彼は当時付き合っていた彼女をバンドマンに取られ、自分もバンドをやって見返してやる、その思いからback numberというバンドができた。なぜ「back number」なのかというと、自分はその彼女にとっての「型遅れ」だから。さらに彼らのインディーズ時代のファーストミニアルバム、「逃した魚」にはこう刻まれている。

 「逃した魚はこんなに大きくなりました。」と。

 一人の男の失恋の物語は、その時は想像だにしなかったであろう多くの人の感情を揺さぶらせ、その感動の輪は着実に繋がっていき、いつしかドームツアーを成し得るバンドにまでなった。私が彼らを、彼らの曲を好きになったのはまだほんの最近のことだけれど、でもこれを思うとどうしても胸が熱くなる。この魚はどこまで大きくなって、どんな景色をこれから見せてくれるのだろう。十分すぎるくらいもうたくさんのものを彼らからもう貰っているけれど、でも彼らが一体どこまで行くのか、それが今から楽しみで仕方がないのだ。


 「今からいろんな時期に作った曲をやります。」

そう呟いて始まったのは「チェックのワンピース」だった。この曲を歌うなんて露ほども思っていなくて、驚きと嬉しさでいっぱいになった。

 「夜の街を見下ろしながら なんとなく気付いた事は  
あんなに綺麗に光ってたってさ 自分は見えないんだよな」

そう曲が始まって、それと共に仄明るい橙色の光がぽつりぽつりと会場に浮かんでいった。ランタンが宙を舞っているようなその光景はそれはそれは綺麗で、曲調とマッチしたどこまでも暖かい空間だった。歌詞は切ないけれど、それもまたいい味を醸し出していて。これは彼女と別れた男の心情をつづった歌で、依与吏さんが言う「小さな歌」なのかななんて思いを馳せながら聞いていた。

 この曲が余韻を残して終わり、しんみりとした気分に浸っていると、依与吏さんが再び歌い始めた。ただし、それは私の知っている曲ではない。彼の即興曲だった。

「どうして、君が―――」

その言葉を皮切りに、彼が言葉を紡ぎ始めた。ギターを掻き鳴らしながら。彼の弾き語る声だけが東京ドームに響き渡った。観客は皆それを聞きこぼすまいと一心に耳を傾ける情景はなぜだか永遠の時のように思えた。しばし弾き語ったのち、この言葉で彼は即興を締めくくった。

「君の代わりなど 僕はいらないのに―――――」

その瞬間、私は稲妻に打たれたかのような錯覚に陥った。このフレーズ、この最後のメロディだけは聞いたことがある、いや、確かに何度も聞いている、なんだっけ―――その記憶の糸が手繰り寄せられ私がその曲が何であるのかを悟るのと、その曲が始まるのは同時だった。

「エンディング」だ。

即興の終わりと「エンディング」のサビが繋がった瞬間は、まるでひとつだけ欠けていたパズルのピースがやっと見つかって、すべてはめることができたような、そんな感覚だった。気づいたときには無音で感嘆の溜息が漏れ出ていた。それほどの感動だった。そしてゆっくりと演奏が始まって、「エンディング」の世界が回り始めた。

この曲は入りはもちろんのこと、メンバー三人の曲中の様子が特に印象的な歌でもあった。ラスサビが終わり、間奏に入ると依与吏さんと和也さんは後方でドラムを叩く寿さんの方を向いて演奏していて、それがモニターにアップで映された。

切なすぎる歌詞、曲調とはまるで裏腹に寿さんは満面の笑みで、二人とアイコンタクトを交わしながらドラムを叩いていて、その姿はそれはそれは楽しそうで。それを見て演奏する依与吏さんと和也さんはこれでもかと力強い音を紡ぎだしていて。それに呼応されたのか、寿さんが雄叫びを上げるかのように上を向いて腕を振り上げ、負けじと力強くドラムを叩いて最後の一音を打ち込んだ。心から演奏を楽しいと感じている様子がこちらまでひしひしと伝わってきて、感慨無量だった。


 それからMCや曲をいくつも挟んだ後、再び即興曲が始まった。先ほどのものとはまた全く違うもので、彼は「あぁ――――。」と呟きながらギターを鳴らしていた。何度も、何度も。時にははっとするほど力強く、またある時には切なく。
「あぁ」文字に表わしたらたったその二文字なのに、それだけで感情が揺さぶられる気がした。目が離せなかった。
 
そして静かに始まったのは「stay with me」。泣きそうだった。

インディーズ時代のアルバム、「あとのまつり」に収録されているこの歌、「stay with me」。つまり、「私のそばにいて。」

back number初の武道館公演のタイトルは「stay with us」すなわち「私たちのそばにいて。」

冒頭でも述べたとおりそこで清水依与吏はこうファンに約束した。

「ここにいる全員つれて、もっともっとすごい景色、絶対見せるからさ、絶対東京ドームまで連れていきます。」

そして五年後。自身初となる東名阪ドームツアーのタイトルは、「stay with you」「あなたのそばにいます。」

徐々に彼らの存在が大きく、また力強くなって、そして優しく寄り添ってくれているように感じる。それを思うとファンをどこまでも大切にしてくれているんだな、と一ファンとしてとても嬉しかったし、またその曲をドームで、原点に立って歌ってくれるところ、やっぱり大好きだ、と思った。これ以上の言葉では表せない。先ほども述べたとおり私はまだ彼らを好きになって日も浅いし、武道館ライブをした時だってまだ私は小学生の時で、とても彼らのことなど知る由もなかったけれど、今彼らに出会えて、同じ時代に生きて曲を聴くことができることが心から幸せだと思った。


 そしてこの後大不正解、MOTTOとアップテンポな曲が続き、とうとう本編ラストの曲へと突入する。

「絶対に、また、迎えに来るからな!!!」

「スーパースターになったら!!!」

清水依与吏のその力強い言葉とともに、銀テープが空高く打ち上げられ、重力に従って煌めきながらアリーナ席へと舞っていった。私は二階席からそれを眺めることしかできなかったけれど、その光景があまりにも夢の世界のようで、最高で、永遠にここで時が止まればいいのにとさえ思った。観客の高揚は最高潮に達した。

「お前ら愛してるぞ!!!」

スーパースターになったら恒例の依与吏さんのシャウト。ライブ映像でしか見たことがなくて、生で聴ける日を夢見てたから本当に嬉しかった。思わず黄色い歓声を上げてしまったのは言うまでもない。

そうしてあっという間にこのパートに。

「スーパースターになったら 迎えに行くよきっと 
僕を待ってなんていなくたって 迷惑だと言われても」

この曲の最後のサビだけは唯一、お客さんが一緒になって歌う場面だ。もちろん私も全力で声を張り上げた。自分の声が観客の声と混じり合って溶けて一つになる感覚は、言い表せないほど気持ちよかった。最高のひと時だった。


そんなこんなで本編はあっという間に終わりを迎え、アンコールでメンバーがツアーTシャツに着替えて再び登場した。もうすぐ終わってしまうのか、そんな思いが少し頭をもたげた。そうしてアンコール一発目の曲は、「ネタンデルタール人」。

曲に耳を傾けつつ後ろのモニターをちらりと見ると、なんとそこには、back numberのインディーズ時代のライブ映像が映されていた。思わず目が釘付けになった。その中の彼らはまだ若くて、会場も小さなライブハウスで。今と変わらず一生懸命に曲を届けているのが伝わってきた。でもそこにいるお客さんの数はまばらで、全力でリズムに乗っている人も少なくて。でも今ふとここを見回せば、数えきれないほどのお客さんが彼らの歌に耳を傾けていて。小さなライブハウスから始まったバンドがいつしかこんなにも大きな会場で、何万人もの人が彼らの歌を聴くためにこうして集まっていることを感じてまた泣きかけてしまった。

 そしてこの曲の後のMCで彼はこう言った。

「今までいろいろあったけれどすべて楽しかったってわけでは決してなくて。誰がこんなバンド見るんだよって。…………back numberの初めてのドームツアーに行ったんだぜって自慢できるような、そんなバンドになるから。そして絶対にぜっったいにback numberを聞いたことを後悔させないから。」

彼の覚悟で満ち溢れた言葉を聞いて、気づいたときには視界が滲んでいた。胸が熱くなった。ひとことひとこと、噛みしめながら話す依与吏さんの目は心なしか赤くなっているように見えて、それを横で黙って頷く和也さん、寿さんも見えて。一生ついていく、気づいたら自分の中でそんな思いが芽生えていることに気づいた。それを思わせるくらい依与吏さんの言葉は強く胸に響いた。この依与吏さんの目を一生忘れない、そう思った。

 そうしてアンコールが終わり、三人の退場する時間が近づいてきた。モニターには三人が会場全体を見渡して惜しみなく手を振る様子が一人ずつ映っていた。寿さんは満面の笑みで大きく手を振っていて、依与吏さんは手を振りつつも涙をぬぐうかのように手の甲を顔に当てていた。和也さんは会場に深いお辞儀をし、一段と拍手が大きくなった。そのときの彼の目は、少し潤んでいるように見えた。

そして最後に、三人が一列に並んだ。寿さんが若干おちゃらけながら依与吏さんの肩を組むと、依与吏さんは少し照れ笑いを浮かべ、そしてそのままもう片方の腕を和也さんの方に回した。三人がしっかりと肩を組んだ瞬間だった。会場から大きな拍手と歓声が上がった、三人とも照れ臭そうだった。気恥ずかしさからか依与吏さんがすぐそれをほどいてしまったけれど、三人ともにこやかな表情を浮かべていて、仲間への信頼感というのだろうか、そういったものが垣間見えた気がして幸せな気持ちになった。

そうして三人はステージから降りていった。最高な三時間が、終わった瞬間だった。



今でもこのライブは大切な思い出だし、私の心の中に大事に大事にしまい込まれている。

私が初めて好きになったバンドが、私の初めてのライブがback numberで、本当に、本当によかった。

やっぱりback numberは、今も、そしてこの先もずっと、私のスーパースターだ。



この作品は、「音楽文」の2019年12月・月間賞で入賞を受賞した東京都・まろんさん(15歳)による作品です。


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