不明瞭で不確実でも、たまらないもの - LIVE HOLIC extra vol.3 UNISON SQUARE GARDEN を観て

やっとの思いで掴み取った最前列の柵を汗ばんだ手でグッと掴みなおした。
早朝からの行動量は普段の倍くらいだったろうか、しかし音楽は不思議である。普段の倍以上胸がときめいている。
そうして額の汗をぬぐいながら、彼ら、UNISON SQUARE GARDENの登場を今か今かと待ち望んでいた。

 心臓がドクン、と大きく鼓動した。今回のLIVE HOLICのような大規模音楽フェスではお決まりのNEXTアーティスト紹介の映像が大画面で流れたかと思えば、ステージはブルーのライトに照らされ、観客はあっという間に彼らの世界に吸い込まれた。
イズミカワソラの「絵の具」が会場中に響き渡り、1人ずつゆっくりと登場し、真っ新なステージを虹色に染めていく。
あぁ、UNISON SQUARE GARDENが、きた。


 「午前3時の胸騒ぎ エルサレムが睨んでる」

涼しい顔で斎藤宏介がワンフレーズ目を歌い上げたのは「Cheap Cheap Endroll」だ。1曲目からエンドロールなんてやめてくれ、「君がもっと嫌いになっていく」なんて歌わないでくれ、あぁ、やはり目の前にいるのは間違いなくUNISON SQUARE GARDENだ。この感覚がなんとも気持ちがいい、口元が緩んでしまう。セットリストを考えるのが趣味だという田淵智也の思惑にずっぽりはまってしまった気がした。
どんな会場でも恐ろしいほどいつも通りの彼らの音楽に聞き惚れていると、1曲目のアウトロがカットされ、そのままするりと美しく2曲目に突入した。

なんて天才的なイントロだろう。一瞬にして幕張メッセの天井が吹き抜けて、満天の星空の下に降り立った気分である。2曲目「オリオンをなぞる」。
「ナイフを持つ その、本当の意味が あなたにもし、もしわかるのなら すごく嬉しいんだ」
飾らない彼らの、飾らない音楽はいつでも私たちのすぐ隣に寄り添ってくれる。歌詞1つ1つを壊れないように、大切に心に閉じ込めた。

汗か涙かもうよくわからない。人の波に身体を委ねながら拭い取った。
「UNISON SQUARE GARDENです、ようこそ!」
斎藤宏介の言葉とともに始まったのはなんともポップなメロディ、「君の瞳に恋してない」。
この曲を初めて聴いた時の感情を思い出した。UNISON SQUARE GARDENに裏切られ続ける心地良さ。こんなメロディラインで「君の瞳に恋なんてしてはないけどわかる」なんて歌詞を歌えるのはUNISON SQUARE GARDENしかいない。やっぱり私は田淵智也がよく言う「物好き」なのかもしれない。上等である。

続いて「フィクションフリーククライシス」。この曲を本当の意味で理解できるのはおそらくこの世で田淵智也だけだが、ファン1人1人が自分なりに曲を楽しめるのがUNISON SQUARE GARDENの曲の良いところだ。メンバーが「勝手にしてくれ」と言ったもんなので、ありがたく勝手に楽しませてもらった。

 徐々に上がる会場の温度を肌に感じながら、1秒たりとも私の眼はステージ上の3人から離れない。ときめく胸をなだめながら、ぼんやり夢の中のような感覚に浸っていると、全身に電流が走った。5曲目、「天国と地獄」である。
本当に3人しか音を出してないのか、と疑ってしまうほど勢いと圧倒的な音圧である。あたりを少し見回すと、これが1人残らず笑顔なのだ。本人たちは自分たちが良いと思う音楽をただ作っているだけと言うかもしれない。けれど、それがこんなに多くの人を笑顔にすることができる力を持っているなんて、彼らは正真正銘のヒーローである。

 会場の熱気は最高潮に達していた。なんだか、分かった気がした。ここで来る曲はこれしかない。6曲目、「シュガーソングとビターステップ」だ。
何度聴いても飽きない名曲とはこの曲のことだと思っている。理由は簡単で、何度聴いても納得することがない。果てしない。まさに「連鎖になってリフレクト」である。しかし私はUNISON SQUARE GARDENの曲に関して、彼らが考える曲の意味合いと私たち1リスナーが考える意味合いが一致する必要はないと考えている。また、別に何も考えずに聴くのも良い。問題は好きか嫌いかだ。私は、そんな彼らの音が大好きだ。

 熱狂もそのままに、7曲目「桜のあと(all quartets lead to the?)」へ駆け抜ける。
「愛が世界救うだなんて僕は信じてないけどね」
「歪なるミュージック 大丈夫 僕らが試金石」
柵に掴まりながら音楽に身を委ね、何度も何度も笑顔になった。私は彼らの音楽が好きで、ここにいる観客もみな彼らの音楽が好きで、こうやって集まって好きな音楽を目の前で聴いている。幸せを噛み締め、また彼らを見上げた。

「桜のあと」が終わったところで、斎藤宏介が口を開いた。
「次の曲でラストです。アンコールもないです!ありがとうございました、最後まで楽しんでいってください!」
私はこんなロックバンドを観たことがない。UNISON SQUARE GARDENはどこまでもUNISON SQUARE GARDENだ。私たちはどこまでも裏切られ続ける。たまらない。
そうして始まったのは「春が来てぼくら」。2曲目には星空の下にいたのに、今度は春の野原にやってきたようだ。訳も分からず涙が止まらなくなった。スポットライトに照らされる彼らの姿が涙で滲む。「Catch up, latency」という曲のこんな歌詞を思い出した。

「あまりにも不明瞭で不確実 でもたまんない」

これはまさに私が音楽を好きになる時に一番大切にする感情だ。UNISON SQUARE GARDENというロックバンドは、私のこの感情を常に巻き起こす。
なんだか不明瞭で不確実でよく分からないけど、私はUNISON SQUARE GARDENの音楽がたまらなく好きだ。好きだということだけはハッキリ分かる。
怒涛の勢いでLIVE HOLIC2日目のトリを駆け抜けた3人の背中を見送り、私はきつく掴んでいた柵に熱を残して、ゆっくりと帰路に着いた。彼らが彩る、虹色のキャンバスのほんの一部分の時間を共有できたような気がした。


時が流れて世界が変わっていっても、UNISON SQUARE GARDENは既存の「ミュージシャン」の概念の斜め上を行くロックバンドであり続けるのであろう。「新未来を願う空前絶後の言葉」で、私たちを掴んで離さないのだろう。
私は「物好き」なので仕方がない、これからも彼らの紡ぐ歌詞を、音を、追いかけていきたい。



この作品は、「音楽文」の2019年6月・最優秀賞を受賞した神奈川県・かえでさん(18歳)による作品です。


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