新時代のヒーローになる者として - AIR JAM 2018で、04 Limited Sazabysを観た

Hi-STANDARDが用意してくれたのは、ツーマンの時と同じ、ハイスタを観るために集まった人で埋め尽くされたフロア、トリ前のステージ。2018年9月9日、ZOZOマリンスタジアムにて、時刻は19時過ぎ。陽も落ちてすっかり光が似合うようになったその場所に、憧れの晴れ舞台に、確かに04 Limited Sazabysは立っていた。

"夢みたいな現実。なんでこの位置なのかわからないけど、やるしかない。いつまでもおっさん達に任せてらんねぇんだよ、世代交代です!この曲知ってるやつAIR JAMに何人いんだよ!"
モニターに「04 Limited Sazabys」の文字が映し出されるやいなや啖呵を切り、ちょうど一年ほど前ガイシホールでハイスタのファンに向けられて放たれた一曲目と同じ、「monolith」が爆音で鳴り響く。でももうそこに、もがき必死に食らいついてたあの日のフォーリミの姿はなかった。迷いも不安も、どこにもなかった。ただただ自分たちが一番かっこいいと思うものを届ければいい、そんな自信に満ちた表情で堂々と音を鳴らす4人を観て、ああ、もう絶対大丈夫だ、と確信した。

「monolith」の勢いそのままに、「fiction」「escape」となだれ込んでいく。曲中のギター2人による煽りも、あの日は心なしか遠慮がちに聞こえていたが、もう遠慮などなく、ZOZOマリンスタジアムに集まった3万人誰一人置いていくまいという気持ちが声にしっかり込もっていた。ステージの端から端まで駆け巡る余裕まで見えた。構成の似たセトリだとわたしは感じたが、だからこそ、あの日とは全然違う部分をいくつも見つけることができて、バンドの成長をまざまざと感じさせられた。本当に同じバンドか?と思うほどだった。まだまだアウェーと言われてしまうような環境ではあったが、わたしの隣にいたハイスタのTシャツを着たお客さんも、拳を上げていた。ちゃんと、届いていた。

"トリ前で何したらいいかな、何したら喜んでくれるかなって、ハイスタのカバーとかもやろうかとかいろいろ考えたんですけど、俺たちの曲の中には全部ハイスタの遺伝子が入ってるので、俺たちの曲を全力でやって帰ります!というわけで、新曲やっちゃっていいですか?"と「message」を披露。ハイハットのリズムにギターのリフが乗り、どっしりと構えたツービートの上でギター、ベース、ボーカル、そしてコーラスのさまざまな音がそこから約50秒間自由に舞い踊る。研ぎ澄まされたハイトーンヴォイスは、空を突き抜けるように伸びていく。10周年の節目に発売されるフルアルバム「SOIL」の一曲目を飾るこの曲は、新曲としては実に5年ぶりの全編英語詞である高速メロディックチューンだ。このタイミングで、ハイスタとその世代のファンたちの前で、"新曲"として披露された曲が、ハイスタの遺伝子をまっすぐに引き継ぐ「message」であったことはとても奇跡的なことであるように思う。3万人の心を、たった1曲でしっかり掴めたのではないか、と信じずにはいられない。

"ハイスタに捧げます!"から始まった「My HERO」。<超えて行きたい My HERO>がこんなにも似合うステージがあるだろうか。今まさに、My HERO—わたしのヒーロー=04 Limited Sazabysが、My HERO—フォーリミのヒーロー=Hi-STANDARDを、超えていこうとする瞬間だった。ああ、これだ、これを観るために今日ここにわたしはいるんだと思った。

続く2014年のヒットナンバー「swim」。<もがいて沈んでまた息継ぎ 信じろ 未来を>ライブではこの部分を歌詞のまま歌わず、手拍子を煽ることもよくあるのだが、この日はしっかりと言葉一つ一つを噛みしめるように歌っていた。フォーリミが信じてきた未来が、そこにあったからだ。

"04 Limited Sazabys流の「STARRY NIGHT」です。"と明かされた「midnight cruising」は、この時間帯のステージにとっても似合っていた。会場全体が大きく揺れ動き、まるで本物の流星群が降ってきたようにキラキラ輝いていた。

"ハイスタやいろんなバンドが活躍していた90年代が羨ましいし、今日ここにいる人の中にもたくさんいると思うけどハイスタをリアルタイムで観た人たちも羨ましい。リスペクトしています。ハイスタに人生を狂わされたけど、リアルタイムで目撃できなかったから…。でも今ハイスタが復活して、この前ここで観れたようにエルレも復活して、同じバンドをやれてる、同じステージに立ててる。こんなに幸せなことはないです。"大先輩たちへの愛と尊敬を、HIROKAZさんが奏でるアルペジオに乗せて語ってくれた。この後に鳴らす曲はもう一つしかない。積み上げてきたものを、一度ぶち壊そう、破壊が創造を生む、また新しいものを作ろうという曲——「Buster call」だ。
のちにハイスタのステージで難波さんが語ってくれたのだが、この日のトップバッターがBRAHMANで、トリ前がフォーリミだったのは、"最近のフェスはなんでも若いバンドから始まることが多く、それを壊したかった"からで、"最初はBRAHMANか、ハイスタがやるしかなかった(笑)"らしい。BRAHMANのTOSHI-LOWさんも最初はえ?という反応だったが、話すとわかってくれたそうだ。
そんな、ハイスタがフェスの固定観念を壊したくて用意してくれたトリ前のステージでの「Buster call」。GENさんの声が、フォーリミの音が、響かないわけがなかった。ハイスタの意思を受け、完膚なきまでぶち壊していった。ここからどんなものが新しくできていくのか、期待せずにはいられない、そんな、2分49秒間だった。

AIR JAM 2018にて、フォーリミまでたくさんのバンドを観て感じたのは、バンドマンたちがわたしたちに伝えたいことは同じだということ。それは"自由であれ" "自分であれ"ということだ。ロックバンドは自由だ、自由に自分の好きな曲を作り、ライブをしている、お前たちは自分の好きを信じて、ここにいる、だから自由であれと。フォーリミだってそうだ。だからきっと、"自分自身に生まれ変われ"と、最後に「Squall」を聴かせてくれたのだろう。

この後に待ち受けていたHi-STANDARDは、ヒーローのヒーローは、無敵だった。でも不思議と、やっぱり敵わないなあという気持ちではなかった。ハイスタの前、たったの30分間。名古屋代表「04 Limited Sazabys」は、ただヒーローに憧れた者としてではなく、新時代のヒーローになる者としてのライブを観せてくれたのだ。そのライブ後のハイスタのライブは、フォーリミもいつかこうなるんだと、自然とそう思いながら観れるようになっていた。ハイスタのステージにGENさんが呼ばれ、GEN少年が初めて楽器を持ってコピーしたという「My First Kiss」を、難波さんのマイクで歌うという小さな奇跡も起きた。果たして、ハイスタ世代、AIR JAM世代のみなさんの目にはどう映っただろうか。いつかハイスタ世代に続くフォーリミ世代と呼ばれるバンドが出てくる未来を夢見ながら、わたしはZOZOマリンスタジアムを後にした。


この作品は、「音楽文」の2018年11月・月間賞で最優秀賞を受賞した兵庫県・ナカムラさん(24歳)による作品です。


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