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COSMO STAGE15:00

幻のバンドが遂に降臨。20年ぶりの幸福

そもそもこのバンドは岩井俊二監督の映画『スワロウテイル』(1996年)の劇中における架空のバンドとしてデビューし、小林武史(Key)のプロデュースと主役のグリコを演じたChara(Vo)のヴォーカルで、当時、アルバム『MONTAGE』やシングル『Swallowtail Butterfly ~あいのうた~』を大ヒットさせた。2015年において予想もしていなかった嬉しいニュースが、そのYEN TOWN BANDの20年ぶりの復活だった。そしてまさか彼らのステージをCOUNTDOWN JAPAN 15/16で観れるとは夢にも思わなかった、という人も多いのではないだろうか。

ライヴは“Sunday Park”で静かに始まり、徐々に体温を上げていった。名越由貴夫(Gtr)によるオルタナティヴなギターの音とたゆたうようなグリコ=Charaの声が何ともセンチメンタル。旋律はどこか不安な心情をなぞるようだけれど、音そのものの温もりが優しく全体の輪郭をふちどっていく。 「YEN TOWN BANDです!」というグリコのフレンドリーな挨拶を挟み、彼女がセクシーに踊りながら2曲目の“Mama's alright”へ。ハスキーな歌声とサウンドの熱気が独特のグルーヴを放っていく。
「YEN TOWN BANDって知ってる?」とグリコがフロアに問いかけ、「武史ちゃんです」と小林武史を紹介。そこからは「じゃあデビュー曲を」と、“上海ベイベ”を披露。ひとつひとつの手触りを感じさせるような音色にコーラスも加わり、最高にスイートでソウルフルな、うっとりする空間に心が釘付けになる。そこからパーカッションとノイジーなギターがキュートに絡む“してよしてよ”では感情が爆発するようなグリコのシャウトが炸裂。「私たちは(アルバムを)1枚しか出してないの」と言うがあまりにも鮮烈な印象を残し続けているアルバム『MONTAGE』のモードにどっぷりと浸らせてもらった。

しかし12月2日にリリースされたばかりの20年ぶりの新曲“アイノネ”が披露されると過去から現在へとワープするような感覚がとても自然に訪れて感動的だった。20年という時を越えた物語の広がり――それはひとりひとりの心の中に、まだ消えていなかったYEN TOWN BANDとは何だったのかという問いかけであると同時に、更なる出会いに対する祈りのような神聖さに満ちて会場いっぱいに広がった。

最後は「あいのうたがあるんだけど……聴いて?」と“Swallowtail Butterfly ~あいのうた~”。あの永遠のノスタルジーとも呼ぶべきイントロが聴こえてきたら、会場からは拍手が沸き起こり、しかしすぐにみんなそれぞれの世界へと入り込むように聴き入る様が印象的だった。Charaのソロにおけるライヴでも歌われてきた名曲だが、YEN TOWN BANDとして鳴らされるのはまた特別な感慨深さがあった。ステージ去り際も多くを語らず、終始穏やかに輝きを放ちながら歌っていた彼女こそがYEN TOWN BANDのグリコである。まるで幻を見たような、でも確かな余韻がCOSMO STAGEに残った。(上野三樹)

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YEN TOWN BAND

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