SEが鳴り止み少し経ってから、佐藤(Gt,Vo)がエレキギターを弾きながらワンフレーズ歌う。「クロノスタシス」と1曲目のタイトルコールをして、きのこ帝国のライヴが始まった。緩やかなテンポと少なめの音数が楽曲の持つ温かみと一抹の寂しさを表現していく。人肌に触れた感覚になれるような音楽。今年、バンドが持つ陰と陽を逆転させたかのようなアルバム『フェイクワールドワンダーランド』をリリースしたきのこ帝国。その変化はライヴの上でも表れているようだ。西村”コン”(Dr )のリズムが曲間を繋げるなか、「こんばんは。改めまして、きのこ帝国です。初めて観る方もいると思いますが、みなさんまだ緊張してませんか 私たちは今緊張してます(笑)」と佐藤。「みんなのパワーを分けてもらえたらいいなということで次の曲をやります。一緒にフンフンフン~♪って歌ってもいいですよ。強制じゃないですけど」と彼女らしい語り口だ。そして始まったのは『フェイクワールドワンダーランド』の先行シングルとしてリリースされた“東京”だ。この1年でバンドの代表曲のひとつとなったこの楽曲を演奏する4人の姿は、大切な宝物を愛でるかのよう。スクリーンに映る表情もこころなしか穏やかだ。アウトロでどこまでも伸びていってしまいそうな佐藤の歌声と、どんどん熱量と純度を増していくバンドのサウンドがピークに達したところでサッと静寂に戻るラストシーンにも引き込まれるものがある。
「大晦日ということで……大晦日じゃないや(笑)。年末ということで大晦日の曲をやります」と披露した“ラストデイ”のあとは一転、“国道スロープ”のハイスピードな世界へとなだれ込む。エッジのあるサウンドで駆け抜けたのち、最後は4人一体となってとてつもない轟音を作り出してから……終了。アッパーチューンの“国道スロープ”を除き、その世界に呑み込まれてしまったかのように微動だにしないオーディエンスの姿が目立ったCOSMO STAGE。音楽に合わせて大合唱したり、飛び跳ねたりするのもフェスの醍醐味だけど、こんな時間もまた至福である。本当にあっという間だった。(蜂須賀ちなみ)
この4日間の模様を凝縮した別冊付録を、「ROCKIN'ON JAPAN3月号(1/30発売)」に封入! 全ライヴ・アクトのセットリストは、そちらに掲載されます。