今週の一枚 ロード『メロドラマ』

また、『メロドラマ』の楽曲のシチュエーションとして繰り返し登場するのが、ダンス・フロアやパーティーの情景だ。それはニュージーランドの田舎で育った世間知らずの少女がこの4年間で味わった華やかで空疎な成功の味、まがい物じみた、でもどうしようもなく魅力的なその世界を体験した彼女だからこその描写だとも言えるが、特筆すべきは本作で描かれるパーティーはそのほぼすべてが、ピークタイムから外れた時間を描いているという点だ。

パーティーの終わりにシャンパングラスを片付けながら(“SoberⅡ”)醒めていく頭。飲んで踊って騒いで忘れようとしたのに、むしろふとした瞬間に悪夢のように蘇ってくる記憶。仲間と共に楽しい場所にいるからこそ、どうしようもなく深まっていく孤独——友達という名のコミュニティに属し、リアルでもSNSでもがんじがらめのように共感と帰属を追い求めないではいられないロードと同世代(Loveless Generation)のリスナーにとって、本作で描かれたこれらのシチュエーションは、彼女たちの内に秘めた弱さを痛いほど抉ってくるものであるはずだ。


しかし、『メロドラマ』は痛みや哀しみを増幅させることでシンパシーを呼ぶアルバムではない。その痛みや哀しみを前提にして、むしろそこからどうにかしてブレイクスルーしていこうとする、そのもがきあがく葛藤によってどこまでも共感が膨らむ一枚なのだ。

ニュー・オーダーデペッシュ・モードを彷彿させるエレクトロ・ビートに加え、メロディの昂揚曲線は殆どU2みたいなレベルに達している“Supercut”や、パーティーの終わりを「毎晩私は生きて死ぬ」と描写しつつも、ブーミーで華やかなシンセが翌朝再び生まれ変わる彼女たち世代の逞しさを象徴しているラスト・ナンバーの“Perfect Places”まで、「大人になる」というメタファーを、当事者の少女がこれほどリアルに、鮮やかに体現しきった作品も滅多にないのではないか。

あまりにも普遍的な、思春期の終わりのサウンドトラックの誕生だ。(粉川しの)
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