今週の一枚 プライマル・スクリーム『カオスモシス』


プライマル・スクリーム
『カオスモシス』
発売中

前作『モア・ライト』の、オーガニックなフラワー・サイケのアートワークから一転、幾何学模様のデジタル・サイケなアートワークへ。なるほど、これがあったか!と思わず膝を叩いてしまう、カラフルなシンセ・ポップ路線のアルバムである。プライマル・スクリームの場合は「これがあったか」という発見の驚きがとても重要で、ロック表現をダイナミックに代謝させるカメレオン・バンドとしての顔は、さすがにデビュー30年となると逆に重荷になってくる部分もあると思う。新作『カオスモシス』が素晴らしいのは、その重荷を完全に振り切って、キャッチーなプライマル・サウンドへと昇華させている点にあるだろう。

威勢の良いかけ声というよりも、トロピカルな哀愁を帯びて放たれる“I Can Change”に触れれば、近年の「大人なプライマル・スクリーム」が自然に滲み出た部分もあることが分かる。しかし、ボビー・ギレスピーやアンドリュー・イネスよりも遥かに若手のビヨーン・イットリング(ピーター・ビヨーン・アンド・ジョン)を『ビューティフル・フューチャー』に引き続き共同プロデューサーに迎えることで、キラキラ活き活きと粒だったサウンドに仕上げられているのである。

また、ハイム姉妹(“Trippin’ On Your Love”、“ 100% Or Nothing”)、スカイ・フェレイラ(“Where The Light Gets In”)、キャッツ・アイズのレイチェル・ゼフィラ(“Private Wars”、“Carnival Of Fools”、“Golden Rope”、“Autumn In Paradise”)といった若手女性ヴォーカルのゲスト参加(それぞれの参加クレジットは『ロッキング・オン』4月号インタヴューを参照)が大きなフックにもなっていて、エレポップ要素とやたら好相性な舵取りにも唸らされる。ベーシストのシモーヌ・バトラーが、コミュニケーションの良い潤滑油として機能している部分もあるのではないか。

プライマル・スクリームは、時代との接点を保ちながら、時代に対する抗体=ロック・メンタリティを抽出し続けてきたバンドだ。『スクリーマデリカ』再現ライヴ→大人になった第2の『スクリーマデリカ』と呼ぶべき前作『モア・ライト』は素晴らしいアルバムだったが、よりフレッシュで洗練された『カオスモシス』は、若いファンにこそ聴いて欲しい最新型プライマルズである。ハイパーなダンス・パンク作となった“When The Blackout Meets The Fallout”を、懐刀のように忍ばせる辺りもさすが。(小池宏和)