アヴィーチー
『ストーリーズ』
10月2日(金)発売
返す返すも来日キャンセルが残念なアヴィーチーだが、いよいよ新作『ストーリーズ』が届けられる。期待に応えて余りある、最新型のポップ・フォーミュラを伝える傑作である。これは端的に言えば、ポップ・ミュージック・シーンをリードする傑作ではなくて、ポップ・ミュージック・シーンを「待つ」傑作である。ここまで言わないと分からねえか、ここまで鳴らさないと分からねえか、という、アヴィーチーの執念を感じさせる一枚になっている。
前提として、アヴィーチーはEDM界の異端児である。王道ど真ん中のエレクトロ・ハウスに触れようとして前作『トゥルー』を手に取った人は、誰しもが「これじゃない。これじゃないけど凄い」と感じたことだろう。こちらのニュース記事(http://ro69.jp/news/detail/131305)からも分かるように、アヴィーチーはインディー・フォークやニュー・ルーツ系のサウンドに着想を得て、エレクトロ・ハウスに大胆な変革をもたらした。それが、世界中で大絶賛されたのである。
『ストーリーズ』は、そんな『トゥルー』以降のアヴィーチーのヴィジョンを受け継ぎ、突き詰めている。大味なダンス・ビートで強引に踊らせるようなトラックはほぼ皆無だが、実はリズム・トラック自体は『トゥルー』の頃よりも遥かに研ぎ澄まされている(セルフ・リミックス盤『トゥルー:アヴィーチー・バイ・アヴィーチー』を挟んで3枚を続けて聴くと、その変遷が良くわかるのではないか)。フォーキーであったりソウルフルであったりする豊かな歌心が、上質なトラックと手を取り合って、逃れがたいグルーヴを育む。単調なリズム・トラックとは距離を置いたところで、音楽の強力なエネルギーを伝える、というスタンスだ。
EDMは、もはやダンスの現場だけには収まりきらないものである。アヴィーチーは『トゥルー』の時点でポップ・ソングのクリエイターとしても認知されたのだが、「ポップ・ソングも作れるDJ」というイメージの中に収まることを嫌ったのではないか。だから、本作はエレクトロニック・「ダンス」・ミュージックとは言い切れないデザインに仕上げてある。アヴィーチーが待っているシーンの未来とは、EDMが支配する未来などではなく、音楽の純粋なエネルギーに満ち溢れた未来だからだ。
我々も、彼が日本に来るのを待ち焦がれている。だから、この日本には音楽のエネルギーに満ち溢れた未来があるということを、アヴィーチーに教えてやろう。彼が示した未来のポップ・ミュージックは、こんなにも理解されているのだということを伝えてやろう。日本に行かなきゃ、と思わせてやろう。(小池宏和)