今週の一枚 sumika『Fiction e.p』

『Fiction e.p』
昨年リリースした1stフルアルバム『Familia』は、彼ら自身が本当に納得のいくタイミングで、一切妥協のない内容の作品を作り上げるべく完成した力作にして大傑作だった。どのバンドにとっても1枚目のフルアルバムは思い入れの強いものだし、必然的に音楽へのピュアな衝動に貫かれた作品になるものだが、sumikaの場合はそこにすでにバンド、チームとしての成熟までもを、何一つ妥協することなく入れ込んでいたのだから恐れ入る。言い換えれば、「勢いで突っ走っても良い」、「多少の粗さがあってもOK」と、リスナーに大目に見てもらえるような免罪符を端から拒否し、1枚目から後悔のないものを、メンバー全員が心から自信を持ってリリースできる時期まで、決してフルアルバムを作ろうとはしなかったのである。そもそもsumikaとはそういうバンドだ。

そんな最高傑作を1枚目に「作ろうとして」作ってしまったバンドだからこそ、その次のリリースは自ずとハードルが高くなるはずだ。それは作り手側もそうだし、何よりリスナーやファンの期待値は否が応でも上がってしまう。『Familia』の完成で、持てるすべてを出し切った(ように見えた)sumikaは、その後は大規模なツアーやフェスでのライブなど、多忙な日々を過ごしていたはず。普通ならそれで手一杯になってしまいそうな過密なスケジュールだったと思う。しかし、その充実した日々の中にあって新作リリースに向けての制作も、しっかりと進んでいたのだ。それが4月25日リリースの『Fiction e.p』である。

4曲入りのこの作品が、なぜ「シングル」ではなく「EP」でのリリースなのかは、収録曲すべてを聴き終えた瞬間にすぐに合点がいった。“フィクション”というタイトル曲こそ入っているが、ここに収められた4曲は、どれも「カップリング」として扱うには濃密すぎて、そのすべてがシングルのリード曲になってよいものばかりだったからだ。考えてみれば、『SALLY e.p』の時もそうだったのだけれど、今回の『Fiction e.p』には、よりその思いが強い。では、ざっと4曲の魅力を紹介してみよう。

まずタイトル曲である“フィクション”は、“Lovers”や“MAGIC”系譜の、現在のsumikaの一番のストロングポイントとも言うべき、テンポ感があってスウィングするような華やかなポップミュージック。ただし、全体を支配する絶妙なリズム感覚はsumika史上最高の牽引力で、知らず知らずのうちに心と体がぐいぐい乗せられていってしまう。小川貴之(Key・Cho)が奏でる弾むようなピアノイントロからして、秒殺ノックアウトな楽曲である。
続く“下弦の月”は、黒田隼之介(G・Cho)作曲の疾走感あふれるギターロックサウンドが印象的。しかしこの楽曲も、シンプルに突っ走るだけの楽曲ではなく、1曲の展開の中でリズムパターンが変化したり、ピアノの美しいアレンジが入ったり、sumika流の唯一無二なロックサウンドとして成立させている。この曲は聴くたびに感じる部分がまったく違うというか、シンプルそうに見せて実はかなり奥が深いと思うので、ぜひじっくり聴きこんでほしい。
3曲目の“ペルソナ・プロムナード”については、もう多くを語る必要もないと思う。この曲こそ、これ1曲でシングルを切ったとしても、十分に現在のsumikaの進化、深化の度合いを知ることができると思うし、全員が持てるメソッドをすべて使い切るかのような、出し惜しみなしのバンドイリュージョンに、何の先入観もなしに翻弄されてほしい。sumikaというワンダーランドの真髄を体験できる曲である。そしてなかなかに激烈な歌詞にも注目。
ラストを飾る“いいのに”は、メンバーいわく「モータウン meets 東京」なサウンド。どこか懐かしいのに、とてもフレッシュなバンドサウンドに仕上がっていて、これは、sumikaにしか表現できない「グルーヴの発見」なのかもしれないとさえ思った。ありそうでない、普遍的だけど新しい、そんなサウンドが妙に心地好いのだ。

駆け足での紹介で恐縮だが、少しでもこのEPの濃さが伝わっただろうか。現在発売中の『ROCKIN’ON JAPAN』5月号(あと数日で店頭からはなくなってしまうと思いますが)で、この作品についてメンバー全員が語っているロングインタビューが掲載されているので、そちらも未読の方はぜひ! そして次号6月号(4月28日発売)には、7つのキーワードからsumikaの魅力をひもとくロングインタビューも掲載されます。ぜひ、この濃密な最新作『Fiction e.p』を堪能しながら、読んでもらえたら嬉しいです。(杉浦美恵)