じゃあ『Tank-top Festival in JAPAN』がなぜ良いのか。それは「ヤバイTシャツ屋さん」というジャンルをシーンに確立させるようなアルバムだからだ。3枚目というタイミングも大きい。デビュー以来活躍のフィールドを広げ続け、現在はNHKにレギュラー番組も持って出演している。ライブの規模も大きくなってきた。つまり認知はされた。ここからは、真のブレイクへ向け改めて音楽性が問われることになる。そこでポイントとなるのがまずメロディだ。ヤバTはメロディがすごい。キャッチーさに関しては同世代でピカイチだ。今作にはテンポを落とした、勢いに頼らない楽曲もいくつかあり、それらがまた素晴らしい。考えてみればメロディックパンクとは、ポップなメロディをファストな2ビートに乗せたものだから、すごいパンクをやれるってことはすごいグッドメロディを作れるってことでもある。とは言え、こやまたくや(G・Vo)の旋律を掘り下げると、言葉のイントネーションに抗わないことがキャッチーさを生む秘訣となっている。対してしばたありぼぼ(B・Vo)は、例えば「ハロー!プロジェクト」関連作にも通じる意外性を持ち味としており、ふたりの絶妙なバランスこそがヤバイTシャツ屋さんならではのメロディを作り上げているのだ。
次に、歌詞が批評的であるということ。同時代性と普遍性を兼ね備えている。《何らかの凄そうな強そうな偉そうな何らかのチカラにやられてんな/そんなもんなん?そうなん? お前の自我はそんなもんちゃうやん》(“KOKYAKU満足度1位”)、《小ボケにマジレスするボーイ 小ボケにガチギレするガール/君の許容が 平和に繋がる ボケろよ 現代人よ》(“小ボケにマジレスするボーイ&ガール”)、《自分のやり方で/ゆるりと時代を作れ ゆとりロック》(“ゆとりロック”)。おもな作詞を手がけるこやまは、おちゃらけキャラというより実は暗い人間である、というのは周知のとおりだと思うが、彼の持つちょっとした棘が、リテラシーばかり高まり自分を棚に上げた潔癖症状態とでも言うべき2018年のムードのなかで、批評として機能している。で、それはロックが本来果たすべきものでもあるのだ。だから彼らはもう、憧れや衝動だけでやっている向こう見ずな若手ではなく、シーンになくてはならないバンドへと飛躍を遂げたのである。というわけで、「ヤバTをコピーして育ちました!」みたいな、ヤバT世代の後進が出てくる日もそう遠くないんじゃないかって気がしている。(秋摩竜太郎)