【今週の一枚】sumikaが新アルバムで鳴らした『Chime』が連れ出してくれる世界

『Chime』
sumikaの『Chime』を流している間ずっと、そのスケールの大きなサウンドスケープに、広々としたライブ会場にいるような感覚だった。3階席まである高い天井、煌めく数々の白熱灯、重厚な扉、真っ赤なふかふかの座席。隅々までゴーシャスなホールの荘厳な緞帳が開くと、たちまち会場はアーティストの作り上げるファンタジックな世界で色づいてゆく――と自分でも驚くくらい具体的なビジョンが広がってきた。だがそれはローティーン時代に自力でチケットを取って行ったホールライブの原体験が、五感すべてに蘇ってきたことと同義だったのだ。


『Chime』の作風は、前作『Familia』以降の彼らの活動が大きく影響しているだろう。sumikaはこの1年8ヶ月の間に東京国際フォーラム ホールA公演、初の日本武道館公演にして3days開催と、広大な会場で音を鳴らし続けてきた。『Familia』で「みんなが帰ってこれる家」を作った彼らが、だだっ広い会場の奥の奥まで自分たちの音楽を愛する人で溢れているのを見て「もっと届けたい」と思うようになったのは必然だ。アルバムのタイトルが『Chime』になったのも、「今度は自分の足で、あなたの家のチャイムを鳴らしに行かないとな」という想いからだそうだ。

そして『Chime』はチャイムを鳴らしに行くだけではなく、チャイムを鳴らす目的がある。「天気がいいから外に遊びに行こうよ」と語り掛けるような遊び心溢れる“Flower”や半ば無理矢理引っ張り出すようにパワフルな“ペルソナ・プロムナード”などもあれば、本格的なジャズアプローチを楽しむ“Strawberry Fields”、「家でまったりさせてよ」と言いたげな“Monday”、吉澤嘉代子が2番を歌うアダルティでセンチメンタルな“あの手、この手”など、様々なシチュエーションや感情が存在している。

チャイムを鳴らすとは相手の心にさらに踏み込むことでもあり、となるとさらに自分の心の深いところをさらけ出す必要がある。その結果『Chime』は言葉も音も表現が多彩になった。だからこそ大きな会場のいちばん後ろのいちばん端の人間まで届くだけでなく巻き込むことができるし、リスナーのピュアな感情にまで迫ることができるのだ。

その象徴ともなるのがラストを飾る“Familia”。《所縁(ゆえん)はない/血縁もない/他人同士の僕らは/唯一の/選べる家族としてさ/惹かれあったSympathy》という一節は、片岡健太(Vo・G)がsumikaチームに感じている想いが綴られていると言っていい。楽曲は「ファミリア」を築く約束を交わしたところでハッピーエンドを迎えるが、現実世界においては新しいファミリアとともに他人の家のチャイムを鳴らしたsumikaがどんな物語を作り出すのか、この先のお楽しみである。

2ndフルアルバムでこんな境地まで来てしまった彼ら、いったい3rdや4th、5年後10年後はどうなってしまうのだろうか。ある意味、相当なモンスターバンドだ。(沖さやこ)