【今週の一枚】スピッツはなぜ令和1作目のアルバム『見っけ』でまたもや真新しいスピッツの青い輝きを大発見できたのか?

『見っけ』10月9日発売
恥ずかしがり屋で、天邪鬼で、カラフルだけどちょっといびつで、でもいつだってすぐそばで懸命に「君」のことを想っている――そんなスピッツのロックの在り方を奇跡的なまでにアートワーク化したジャケット写真を見た時点で、音を聴く前から胸が熱くなってしまった。

実際、NHK連続テレビ小説『なつぞら』主題歌“優しいあの子”や、アルバム発売に先駆けてミュージックビデオが公開された“ありがとさん”など、約3年ぶりの新作アルバム『見っけ』の12曲すべてにおいて、スピッツ自身が「スピッツであること」を迷いも衒いもなしで真っ向から(しかも至って自然体で)受け止めていることを物語っている。
それによって、スピッツ唯一無二のロックとポップのマジックが、ファンタジーを超えた密度の包容力と訴求力を持って響いてくる。最高の1枚だ。


《いつか常識的な形を失ったら/そん時は化けてでも届けよう ありがとさん》(“ありがとさん”)

《かすかな匂いをたどる 邪念の中の命/はぐれ狼 乾いた荒野で 美しい悪魔を待つ》(“はぐれ狼”)

《波は荒くても この先を知りたいのさ/たわけもんと呼ばれた 魂で漕いでいくのさ》(“まがった僕のしっぽ”)

今作『見っけ』における草野マサムネ(Vo・G)の楽曲は、その一つひとつがこれまで以上に「生まれたてのような瑞々しさ」と「諦めを知らない少年性」にあふれているし、何より驚かされるのは、そんな蒼く澄んで奮い立つ世界観を実現する言葉とメロディの純度だ。


「あれも欲しい、これもやりたい」と沸き立つ冒険心に身を委ねて新機軸で武装するロック・ソルジャー的な方法論とは一線を画し、己のサウンドとボキャブラリーを磨き上げ突き詰めることによって、今作の楽曲ではロックの輝度と強度を高めつつ、ポップの翼をより大きく広げることに成功している。
スピッツの核心そのもののような今作で、誰よりも『見っけ』感を味わっているのは、まさにスピッツ自身なのかもしれない。

そして同時に、このアルバムで僕らが『見っけ』るのは他でもない、2019年という時代におけるスピッツの音楽の真価そのものだ。
半ば宿命的に「新しいもの」、「もっといいもの」を渇望する音楽シーンにとっての真の「青い鳥」は、紛れもなく僕らと同じ時代を生きて、ずっと至上のメロディを奏で続けている――そのことを、今作はどこまでも豊潤な形で体現しているのである。(高橋智樹)