今週の一枚 星野 源


星野 源
『Crazy Crazy/桜の森』



誤解を恐れずに言うなら、この曲は歌詞がすべてである。
この歌詞がこの曲のすべてであり、この曲のすべてがこの歌詞である。
ここまですべてを言い尽くしているポップスの歌詞はめずらしいし、
歌詞以上のことを音楽が語らない曲自体もまためずらしい。

どうやら曲が最初にできて、そのあとで歌詞ができて、しかも初めはサビしかなかったらしいから、
僕の言っていることは論理的には間違っているはずなのだが、間違ってはいない。
出来上がったこの曲は、歌詞がすべてであり、この歌詞のままの曲だ。

《お早う始めよう
一秒前は死んだ
無常の世界で
やりたいことは何だ》

ポップで跳ねるようなイントロに導かれての冒頭の歌詞。
続いて

《愛しいものは 雲の上さ
意味も闇もない夢を見せて》

と、少しせつないBメロで歌われる。
そしてサビで

《Crazy Crazy 可笑しい頭揺らせ
Crazy 狂って どうかしてると笑えば
まだあの言葉が》

と歌い放つ。
明るいポップスの歌詞としてこれ以上もないしこれ以下もない。これである。

星野はクレイジーキャッツを歌詞のテーマにしようと思ったらしいが、
それはきっと「真の楽天性」の歌にしようという意味だと僕は解釈している。
だから、(またも誤解を恐れずに言えば)、 明るくていいポップスならどんな曲でもこの歌詞があれば“Crazy Crazy”として成立する。

非常に特殊な曲だ。そうはまったく聴こえず、むしろごく普通に聴こえるのだけども。
星野源のやることはやはり根本が変態である。

他の3曲も素晴らしい。
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