今週の一枚 サカナクション『魚図鑑』

『魚図鑑』完全生産限定盤プレミアムBOX
「Disc 1 浅瀬」、「Disc 2 中層」という分類が物語る通り、メジャーデビュー10周年を経たサカナクションにとって初のベストアルバムとなる今作『魚図鑑』は同時に、そのバンドヒストリーを自ら分析し因数分解してみせた、サカナクション解体新書とでも呼ぶべき作品でもある。

“新宝島”、“アイデンティティ”、“アルクアラウンド”などシングル表題曲を中心に、最新楽曲“陽炎 -movie version-”や“ナイトフィッシングイズグッド”、“モノクロトウキョー”といったサカナクション・アンセム群まで計17曲にわたって収めた「浅瀬」だけでも、ベストアルバムとしての機能と役割は十分に果たしていると言える。
しかしそこに、“三日月サンセット”、“ネイティブダンサー”、“白波トップウォーター”、“目が明く藍色”といった「中層」の楽曲――時に自ら光に背を向けてしまうほどの孤独や寂寞感にも寄り添い、広大な地平へ導いていくような言葉と音の数々が重なり合ってくることで、「浅瀬」はより豊潤な色彩感と躍動感に満ちたものとして胸に響いてくる。

ロックとクラブミュージック、内省と高揚、個とコミュニケーション、瞬間と永遠……その表現を通してさまざまな境界線を超えてきたサカナクション。その在り方を改めて明快な「図鑑」として提示してみせたのは取りも直さず、前作『sakanaction』から実に5年ぶりのリリースがアナウンスされたニューアルバムを手に、さらなる音楽の奥底へ、そしてその先の未来へと駆け出していくために他ならない。

そして――初回生産限定盤&期間限定生産盤に収録される上記2枚「浅瀬」、「中層」に加え、完全生産限定盤プレミアムBOXには併せてもう1枚、「Disc 3 深海」と題されたディスクが併せてパッケージされている。
“潮”、“YES NO”、“ティーンエイジ”、“ネプトゥーヌス”、“シーラカンスと僕”、“アムスフィッシュ”、そしてボーナストラック“グッドバイ -binaural field recording-”……日常からはその姿すら窺い知ることのできないほどの心の深淵で蠢めく感情に、その才気の限りを尽くして形を与えようとする情熱こそが、サカナクションの音風景にハイブリッドな覚醒感とプリミティブな神秘性を与えている原動力であり、その世界観は「中層」にも「浅瀬」にも揺るぎなく貫かれている――ということを、この「深海」は如実に物語っている。

《探してた答えはない/此処には多分ないな/だけど僕は敢えて歌うんだ/わかるだろう?/グッドバイ 世界から知ることもできない/不確かな未来へ舵を切る》(“グッドバイ”)

昨年の幕張メッセ公演で、ニューアルバムに関して「めちゃめちゃ暗いアルバムになると思います」と予告していた山口一郎。意識の深海へ手を差し伸べるサカナクションの音楽の最進化形たる新作が、2018年という時代を生きる僕らにとって大切な意味を持つアルバムになるであろうことだけは、1mmたりとも疑いようがない。(高橋智樹)