My Hair is Bad
『時代をあつめて』
2016年5月11日(水)発売
誠実であろうとするほど、コミュニケーションは歪になる。ロックのささくれだった爆音は、どうしても角が立ってしまう本音や、こんがらがったまま解決しない思考を伝えようとするとき、本当に良く似合う音だ。My Hair is Badの楽曲に触れると、あらためてそんなことを思う。ライブシーンでメキメキと頭角を現してきた新潟県上越市出身の3ピースバンドは、通算3作目となる今回のシングル『時代をあつめて』でメジャーデビューを果たすことになる。
ロックの歪さに躊躇しないマイヘアがメジャーデビューするというとき、一体どんな楽曲を用意するのか気がかりだった。そして届けられたのは、『時代をあつめて』という腹の据わったタイトルである。オープニングを飾る1曲は、“戦争を知らない大人たち”。ソロとしても活動する椎木知仁(G・Vo)は分厚い爆音の中から、殺風景で孤独な現実と、再発見された美しい記憶の欠片を押韻に乗せ乱射する。
《テロが起こった日 飲み過ぎてゲロ/新聞に包まり 眠った子猫/眠れば なにも わからない/なにも 感じない/Good night…》(“戦争を知らない大人たち”)
何も答えは出ていない。未来は見えてこない。ただし彼らは、音と言葉を尽くして、誠実にその現実と向き合おうとする。これは今の時代そのものの歌じゃないか。相変わらず、スマートなメロディは見当たらないけれども、歪なまま鍛え上げられ、刺さって抜けなくなる音と言葉がある。これは本当にタフなロックソングであり、真の効力を持つポップソングだ。
ひたむきに誠実であろうとするマイヘアの歌は、今作に収められたラブソングにおいても、やはり上辺だけの優しさを引き剥がしてしまう。2曲目に収録された“最愛の果て”は、間の抜けた男の悲哀に辿り着くさまが、我が事のように思えて身悶えするナンバー。そしてMVも制作された4曲目の“卒業”は、別れの情景の最中にも未来に思いを馳せることを諦めない、そんな執念だけしか青春の財産がない、悲しくも美しい一曲となっている。
My Hair is Bad - 卒業(Official Video)
悪意に満ちた言葉の数々をとことん音楽的に躍動させてしまう3曲目の“悪口たち”も含めて、大きなインパクトを残す4曲が揃った素晴らしいメジャーデビューシングル。個人的な思いをつぶさに描いているようで、実は時代を、そして世代を映し出してしまっている。彼らの歪な音と歌が、丸みを帯びることなく、今後さらに鋭さを増してゆくことを期待したい。(小池宏和)