今週の一枚 スピッツ『SPITZ JAMBOREE TOUR 2016 “醒 め な い”』


7月からスタートする結成30周年記念ツアー「THIRTY30FIFTY50」を前にリリースされるBlu-ray/DVD作品『SPITZ JAMBOREE TOUR 2016 “醒 め な い”』。
昨年8月から全43公演にわたって開催されたホールツアーのうち、9月13日・千葉県文化会館で行われたライブの模様をアンコールまで全曲収録した今作は、最新アルバム『醒めない』の音楽世界の豊潤さときらめきが、「楽曲」「歌詞」「アレンジ」といった個別要素はもちろんのこと、メンバー4人の伸びやかな躍動感に満ちた「今」のモードによって裏打ちされている――ということを、どこまでも鮮烈に伝えてくれる。

決してアッパーでもアップテンポでもない、でも今のスピッツを象徴するような瑞々しくも力強い音像で、ライブの最高のオープニングを飾ってみせた“みなと”。
“運命の人”“チェリー”というバンド史を代表する名曲の間で、すでにスピッツ・スタンダードの如き濃密な存在感とセンチメントを放っている“コメット”。
曲終わりの《あふれているよ》という草野マサムネの熱唱が、あたかも生まれたての衝動のような熱量と生命力をもって心に飛び込んでくる“グリーン”。
4人+クジヒロコのプレイがパズルのようにカットアップされるAメロから、音と音が融け合いマーブル模様を描きながら弾けていく、というスリリングな構図をビジュアルで堪能できる“子グマ!子グマ!”――。

ストイックと呼んで差し支えないくらいに、ただひたすらに自身の楽曲を響かせることに専念しながら、その音像には紛れもなく至上の包容力と一体感が漂っているし、その表現が立ち昇らせる風景はどこまでもクリアで、鮮やかだ。
付加価値的な演出によってではなく、楽曲と演奏そのものの力によって「音楽の魔法」を最大限に体現しているのがスピッツのライブ空間であることは今さら言うまでもないが、その唯一無二の音楽世界がますますその誘引力と訴求力を高めつつあることを、このライブ映像作品は実に雄弁に物語っている。

『醒めない』収録曲を軸に据えつつも、前述の“運命の人”“チェリー”のみならず“ビギナー”“夢じゃない”“楓”“スパイダー”“魔法のコトバ”といったシングル曲群、さらに“日曜日”“アカネ”といった初ライブ映像化の楽曲まで収録した『SPITZ JAMBOREE TOUR 2016 “醒 め な い”』は、スピッツの最高の「今」を焼き付けた作品であると同時に、7月からのツアーと「その先」への、この上ない予告編でもある。
ここまでスピッツの活動を追い続けてきた人もそうでない人も、結成30周年という実りの季節を今この瞬間にひとりでも多く分かち合ってほしい――観終わった後に誰もがそう願わずにいられない作品であることは間違いない。(高橋智樹)