「『5150』(フィフティーワンフィフティー)という別の読み方で、ある意味を持った言葉があります。そこからこのタイトルは引っ張ってきているので是非興味があれば見てみてね」
9月26日付の公式ブログ記事「『5150』に込めた想い」の中で、山中拓也(Vo・G)は楽曲ができないという初めての体験を告白しながら、そんなふうに綴っていた。これは、米警察が使用する隠語で「犯罪行為寸前の、精神に異常をきたした要注意人物」を指すのだそうだ。
“5150” ミュージックビデオ
THE ORAL CIGARETTESが2016年10月16日にリリースしたニューシングル『5150』(読み:ファイブワンファイブオー)は、いつでも不敵にセクシーに、ロックンロールの番狂わせを狙い続けてきたオーラルの姿とは一線を画した切迫感を突きつけてくる。僕は初めてこの音源に触れたあとに、山中のブログ記事を読んですっと腑に落ちる思いがした。この曲の爆発力の根幹には、山中の頭と胸に渦巻いていた狂気スレスレの「生みの苦しみ」が宿されている。
《探し求めた答えはもう無くて/強さをかぶり弱さを抑えていた/期待や愛しさが形を変えてさ/独りこの夜は辛いよ》
歌詞の中にも、息の詰まるような苦しみの手応えが赤裸々に綴られている。ただ辛いだけなら逃げ出せばいいのだけれど、そんな状況から逃げるに逃げられなかったのは、彼を生みの苦しみに縛り付けていたものがほかでもなく、周囲の「期待」や「愛しさ」だったからだ。山中の孤独な心情を、やはり狂気スレスレのサウンドで分かち合ってみせた3人も素晴らしい。
『5150』は、苦しみを包み隠さず伝えるための一曲として研ぎ澄ませることで、退屈な傷の舐め合いを激しく情熱的なコミュニケーションへと転化させている。ポップスターは憧れや崇拝の対象になりやすいし、音楽は誰かの魂を救い得るのだから当然と言えば当然なのだが、オーラルは狂気を孕んだ生身の人間のまま、リスナーと同じ目線で「期待」や「愛しさ」に応えてみせた。
このシングルの店着日、ファンが店頭で知ることが出来るように、オーラルは2017年6月16日(金)の初武道館ワンマンを発表した。話題性先行ではない、勢い任せでもない。赤裸々かつ情熱的なコミュニケーションの先に、オーラルとファンはその「場」を作り上げるだろう。今後のステージでさらに鍛え込まれるはずの“5150”は、間違いなくその「場」のカギになる一曲だ。(小池宏和)