indigo la End
『心雨』
2016年2月3日(水)発売
特にドラマー・佐藤栄太郎を加え現編成になって以降のindigo la Endのシングル『悲しくなる前に』『雫に恋して/忘れて花束』に関して、実際に自分が聴いている音がいわゆる邦楽ロック/ポップの範疇のものであることを忘れかける、という体験が少なからずあった。どこからどう聴いても川谷絵音は日本語で歌っているのに、だ。その音や楽曲が今の音楽シーンにおいて一概には分類&位置づけできないのテイストのものだから、というのもその理由のひとつではある。が、最大のポイントは――川谷絵音が繰り出す楽曲と、川谷絵音/長田カーティス/後鳥亮介/佐藤栄太郎という辣腕プレイヤーの編み上げる躍動感あふれるアンサンブルが同時に、スティーリー・ダンあたりの洋楽AORに通じる洗練度と完成度を備えているから、に他ならない。そんなindigo la Endの洗練度は、最新シングル『心雨』においてさらなる高まりを見せている。
エレピのメランコリックな音色/メロウなアンサンブル/極彩色のコーラスワークといったテクスチャーが織り成す麗しの音風景と、《土砂降りの雨に打たれて》と幾度も登場する心象風景が狂おしくせめぎ合うタイトル曲“心雨”。切迫感に満ちたギターのコード感とソリッドなビートが確かにギアを噛み合わせながら(さらに曲後半ではメタリックな疾走感を体現しながら)、妖艶なまでの歌声を突き上げてみせる“24時、繰り返す”。ピアノとアコギのフォーキーな質感越しに、一部の隙もない透徹したイメージを描き出す“風詠む季節”……今作の卓越したサウンドスケープのいずれもが、indigo la Endというバンドの全方位的な総合力の高さを実証している。そして、それはソングライティングにおいても同様だ。
今作の3曲を含め川谷は、2014年4月のメジャーデビュー以降の約2年弱でindigo la Endとして31曲(ゲスの極み乙女。も合わせると実に70曲)に及ぶ音源を発表している。そんな怒濤の制作ペースの中で、フレーズや楽曲に対する選球眼が格段に研ぎ澄まされていったであろうことは想像に難くない。また、川谷自身『ROCKIN'ON JAPAN』2015年10月号のインタヴューで「栄太郎と後鳥さんがいない時は、レコーディングのたびに余裕をなくしてたので。でも、だんだん固まってきて。でき上がったというか、もう完成形なのかなっていうのはありますね」と語っていた発言からも、後鳥&佐藤の加入によって加速度的に進化しつつあるindigo la Endの表現力を「その先」の楽曲へ直結できることの手応えと充実感が窺える。
「『これがインディゴだ』っていうのは絶対やめようと思ってて。どんどん変えていこうみたいな。すっごい変わったけど、やっぱりインディゴなんだなってあとから思うような曲をこれからも作っていきたいなって」……前述の『JAPAN』誌のインタヴューで、川谷はそう語っていた。バンドのアイデンティティ=「自分たちらしさ」は進化の後からついてくる――そんなindigo la Endの「今」の迷いなきアティテュードが、3色の宝石のような楽曲として結実した1枚だ。(高橋智樹)